- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
今回防衛庁からの要請でヨーロッパの軍医の卒後教育を視察してくるよう命ぜられ,ロンドンの郊外のRAMCのOfficer Recruiting Centerとミュンヘンの保健衛生大学を訪れることになった.多少の日程の余裕があるので,ロンドン滞在中に一日オックスフォードを訪れ,以前留学したことのあるRadcliffe Infirmaryに寄ってみることにした.
イギリスの2月はいつものことながら,暗雲がたちこめ鬱陶しい空模様で時に冷雨が降り,寒々しい毎日であった.オックスフォードは私がBritish Councilの奨学金を得て1965-1967年の2年間の滞在と,その後1969年一寸立ち寄って以来ほぼ30年ぶりの訪問であった.ロンドンのPaddingtonの駅から1時間半ばかりの汽車旅行で,オックスフォードに近付きはるかにオックスフォードの町並みが見え隠れしてくると,30年前の様々な記憶が一度に甦ってきた.オックスフォードの駅は待合い室,カフェ,売店などの装いを新たにして近代的な駅に模様替えしていた.駅から町の中心まで歩いて20分くらいの道のりで,その途中にアメリカ式のモダーンな大きなアーケード付きのショッピングセンターが開設されていたのには一寸驚かされたが,町に入るとTower,林立するCollegeの建物群,Church,古い商店街のすべてが30年前にある私の記憶そのままの姿に残っており,冬にも拘わらずバスで運ばれてきたロンドンからの観光客らの殆どが日本人で町は賑っていた.町の中心から北に200m位歩いていくとRadcliffe Infirmaryがある.ギリシャの神像に降り注ぐ池の噴水のある小さな前庭の周囲には多分200年以上も経ったと思われる旧い煉瓦作りの4階建ての建物や,病院専門の教会が並んでいる.中に入ってみると,新しく中央手術場や病棟が増設されていて神経外科の手術室もそこに移っており,昔懐かしい旧手術場はカンファレンスル,ムに,神経系の雑誌が並べられていたCairns Libraryは広く一般用の図書館に衣更えしていた.しかし,神経外科のスタッフのofficeは昔のままで,奥まった一室には装いも全く昔のまま同じ机,同じ椅子に私の恩師であったMr.Pennybacker先生の代わりにMr.Adams先生が座っておられた.オックスフォードはCushingの直弟子であったSir Hugh Cairnsがロンドンから移ってきて開設された,イギリスの中でも最も伝統のあるクリニークの一つである.奥に通じる廊下の両壁には,このクリニ,クで勉強した先生方の写真が飾られてある.古くはスイスのKrayenbUhl,スペインのObrador,ロンドンのGuy HospitalのFalconer’グラスゴーのJanett,NIHのOmayaなど鐸々たる人々の顔が並んでいる.日本からは自治医大の佐藤教授,岩佐教授,慈恵会医大の阿部教授,滋賀医大の中州庸子先生の若々しい頃の写真が見られた.
Copyright © 1996, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.