Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
Ⅰ.はじめに
1947年にSpiegelとWycisが世界で最初に定位脳手術装置を開発した際,彼らがその装置を使用して治療を目指していた疾患は,精神科疾患であったとされている6).このように精神科疾患は,機能的脳神経外科の開発当初から,深い結びつきをもった領域であった.
脳深部刺激療法(deep brain stimulation:DBS)は,脊髄刺激などの電気刺激療法の一法として,まず難治性疼痛に対して開発され,1990年代からは不随意運動の治療法として応用された.霊長類のパーキンソン病モデルに対する研究から,パーキンソン病では,脳内のループ回路に障害が起こっていることが指摘され,その詳細な機序解明の過程で,視床下核に対するDBSなどが開発されていった.そして,脳内ループ回路障害の概念が提唱された当初から,異常を来していると考えられるループ回路には,運動に関連するものばかりでなく,前頭葉背外側部を通るループや,帯状回を通るループも存在することが指摘されていた(Fig.1)1).さて,周知のとおり,DBSは非常に強力にパーキンソン病の運動症状を改善することができ,脳内ループ回路障害の治療法として捉えられるようになった.それならば,認知活動や精神活動と関係がありそうな,前頭葉背外側部や帯状回のループも改善できるのではないか,と考えられたのは,当然な科学的洞察と思われる.こうして,不随意運動疾患,疼痛疾患のみならず,原因の明らかでない精神科疾患を含めた神経科疾患の中から,脳内ループ回路障害を探索する試みが世界規模で開始され,そしてそれらの疾患に対して,脳内ループ回路障害の治療法としてDBSが試みられていった.
以下に述べる,Tourette症候群,難治性うつ病,強迫性障害(obsessive-compulsive disorder:OCD)以外にも,双極性障害,摂食障害などに対してもDBSが行われているが,これらはいずれもまだ初期の研究段階であり,本稿では割愛する.
Copyright © 2018, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.