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本号の発行は,未曾有の大震災から1年目に当たる.甚大な被害を受けた,東北新幹線,仙台空港が,衆人の予想に比して早い時期に復興し,日本もたいしたものだと感じた人も少なくないと思う.しかしながら,被災地の多くの復興は,遅々として進んでいないようである.管轄の異なる既存の多数の法律が,復興計画の妨げになっているとも聞く.総理大臣が毎年変わる不安定な政権にも大きな問題があろう.政治の重要性を,しみじみと感じる今日この頃である.
「扉」で片岡和夫先生が,震災後に,再び頻繁に耳にするようになった,「想定外」という言葉を取り上げて,医療における不慮,不測の問題を語られている.ヒト由来乾燥硬膜の移植による医原性プリオン病の発生は,メーカーや管轄省庁にも大きな責任があるが,「脳」という神の領域にメスを入れている脳神経外科医にとっては,忘れてはならない問題である.治療がうまくいけば,神様のように思っていただけるが,ひとたび合併症が起きれば,脳という臓器の特異性から極めて重篤な事態となり,脳神経外科医は,患者様,ご家族にとっては,悪魔にもなってしまう.ときには,刑事責任を負うこともありうる.「想定外」,「不測」の意味をいまさら解説する必要もないが,「想定外」,「不測」の事態は,あくまで,その人にとって「想定外」,「不測」であったわけである.幅広い知識,技量,判断力などがあれば,想定できるのではないだろうか.本号には,総説,研究が各1編,症例8編の原著論文が載っている.「想定外」という観点からすると,総説や研究論文は,どちらかというと教科書的な最新の情報を与えてくれるもので,症例報告の中には,病態,治療などに関して,「想定外」の事項が記載されている.前述のように,技量を磨くことにより,多くのことを想定できるようになる.最近では,主要なジャーナルが症例報告をあまり採用しない傾向にあるが,本誌は日本語であるということに加えて,症例報告を多く採用している.このことは,脳神経外科医が,「想定外」を少なくし,医療の安全性,水準の向上に寄与しているものと考える.これからも,臨床の現場で不慮,不測の事態が起きた時に,問題を十分に解析して,その対応策を示すような論文を多数投稿していただきたい.
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