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昨年末,政権交代が確定したころから,株価の上昇,円安の是正が急速に進み,先日のG20外相会議でも,日本の政策が表立って非難されることがなかったことから,当面の日本の方向性が見通せるような状況となった.政治により,世の中がこれほども変わるのだということが実感され,恐ろしい気さえする.医療の世界でも同様である.医療は営利を目的としてはならないはずなのに,近年の病院の会議では,経営のことばかりが取り上げられる.しかし,いくら努力しても,政治が変わると経営状況は一夜にしていかようにも激変してしまう.医療従事者,特に医師は,病院経営のことを考えずに,最善の医療を提供することに専念したいものである.理想と現実のギャップはあまりに大きいということだろうが,それで済ませていいのだろうか.
本号の「扉」で取り上げられた脳死判定の問題も,移植医療との兼ね合いで,政治に大きく左右されてきた.件数は多くはないものの,移植医療は日本でも,国民心理としてようやく定着したかと思える時代になったが,日本初の心臓移植から臓器移植法の成立まで30年近くを要したことは,国民感情に大きく影響され過ぎる,日本の政治の構造上の問題があったのではなかろうか.本号にも興味ある多くの論文が掲載され,中には椎骨動脈解離に関する2編の論文がある.同じ脳卒中であっても,椎骨動脈解離は,脳動脈瘤破裂と異なり,病態,自然経過が複雑であり,個々の症例においてどのような治療が適切であるかの判断は必ずしも容易ではない.医療,医学の発展のためには,このような症例が正確に解析され,知識として蓄積され,適時にそれらを解析していくという,地道な努力が必要である.連載されている「合併症のシステマテイックレビュー」は,執筆者には大変な労力を余儀なくさせているが,最善の医療を提供するために欠かすことのできない情報を与えてくれている.もう1つの連載の「脳神経血管内治療医に必要な知識」であるが,脳神経外科医にとって,今や血管内治療は,手術と同等の価値のある治療手段となったことを,明白に示している.
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