扉
広く世界に友を
髙倉 公朋
1
1東京大学脳神経外科
pp.233
発行日 1987年3月10日
Published Date 1987/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436202370
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日本は,澄んだ青空に紅葉が映える秋の風情であったが,アマゾンの森を越えて到着したリオデジャネイロには夏の太陽が輝いていた.ブラジル第3の都市,ベルオリゾンテで開かれた神経学会に出席することが目的の旅であったが,同時に新しいがんセンターを訪ねるのも楽しみであった.この所長のde Alves教授は敬虔なクリスチャンで,その献身的な人柄を慕う患者が群集まる.9年前に,この市の丘陵の上に立ち,癌に患う貧しい人達のために,ここに病院を建てたいという夢を情熱をこめて語ったのは,現在ウジミナス製鉄所社長のBarbosa氏でde Alves教授の親友である.この2人の情熱が,今回訪れた時には立派に実って新病院は活動を始めていた.細かい所まで,心配りの行き届いた病院である.コバルト治療室の壁は,一面全体が美しい山の写真で張り廻らされており,治療室に入った感じがしない.山の中にいるかと思わせる情景である.患者の心が和むように作ったのですと語りながら,80歳を越えた老教授は私の腕を抱えながら院内を案内して下さった.ブラジルの人人は底抜けに明るく,心暖かな国民である.この国の指導者には立場は違っても,人類愛をひたむきに求める理想があり,それを実現していく力がある,「ブラジルには未来があります」と,この2人は私にいつも,こう語るのである.
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