扉
内と外
山本 信二郎
1
1金沢大学脳神経外科
pp.523-524
発行日 1979年6月10日
Published Date 1979/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436200989
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戦後のある時期を肉体女優としてうたわれたマルチーヌ・キャロルの「女優ナナ」のラストシーンが印象に残る.美貌をエサに,金持,あるいは貴族の男をわたり歩き,最後にはしめ殺される.愛憎の果の所業に,淋しく玄関を立去る男の後姿を背景に,階段に倒れ,大きく見開いた大写しの女の目は決して死体の目ではなかった.強烈なライトに照されて縮瞳し,息を殺し,まぶしさに堪える目であった.かつてある女優が死ぬより辛いことは死人のまねをすることだと書いていたのを思い出し,何ともおかしかった."目は口程に物を言い","目は心の窓","刺すような目","すわった目","うつろな目"などと目が内的なものを表現するという言葉は多い.しかし,これらの目によって表わされる表情の多くは,眼球そのものではなくむしろ目をとり巻く,皮膚,表情筋および外眼筋によるといってよい.怒りの目,笑う目は顔面神経の働きによる.キョロキョロと落ちつかぬ目は動眼,滑車および外転神経によってつくられる.しからば目そのものが物語るものはないであろうか.
"belladonnaは?"と聞かれてすぐ答えられる学生は案外少ないが"madonna"なら知らぬ者は先ずいない.私自身この言葉はラテン語だと思っていたが,辞書を引いて,イタリア語であることをはじめて知り,学生とは五十歩百歩だと自ら苦笑した覚えがある.
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