扉
死よ 驕るなかれ
永井 政勝
1
1独協医科大学脳神経外科
pp.361-362
発行日 1975年5月10日
Published Date 1975/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436200297
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アメリカの有名なジャーナリスト,ジョン・ガンサーの著した「死よ,驕るなかれ」という本は,その日本語訳が,昭和25年に岩波新書に収められ,現在30刷を重ねているので,おそらく大多数の方が一度は読んで居られることと思う.17歳でglioblastoma multiformeのため夭折した自分の息子の罹患から死に至る迄の経過を克明に綴ったこの文章は,この悪性脳腫瘍の怖ろしさをまざまざと描き出したものであり,脳神経外科学的にも極めて貴重な記録と言えるものである.息子のジョニーが病苦をおして高校の試験を突破し,敢然としてその卒業式に臨むくだりは,幾度読んでも涙を禁じ得ないものがあり,感動的な場面である.「死よ,驕るなかれ.死よ,死すべきは汝なれば!」と叫ぶ親,ガンサーの痛切さがひしひしと読むものの胸にひびき理解できるのである.私は幼なくして,または若くしてこの病気のため亡くなって行く患者さんの両親や家族に,この本を読むことをすすめている.この本によって何か救われることが,少しでもあるのではないかという願いからである.それにしても,ジョニーが亡くなったのは1947年である.この30年近くの間にglioblastomaの治療に対して医学は何をなし得たであろうか?この書に書かれた数多くの治療法と比べて,現在の治療法に何等本質的な進歩のないことに吾々は今更のように驚き,そして一瞬,絶望的になるのである.
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