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本号の「扉」には,森岡基浩先生から「手術にまつわる数字」と題する原稿をいただいた.森岡先生は,情報公開の必要性に理解を示しつつも,昨今の病院/医師ランキングが流行する風潮に疑問を呈されている.地域格差の是正,若い外科医の育成など課題が山積の中,手術件数など数字に関する患者サイドの要求が過度に高まると,様々な弊害が生じる可能性を指摘されている.マスメディアが頻繁に医療を扱うのは,国民の健康や医療に対する関心の高さの表れかもしれないが,国民はわが国の医療について正しい認識を持っているのか,あるいは国民が正しい認識を持つようにマスメディアが十分に機能しているかについては,若干心もとないように思われる.
少し古い話なので現在もそうかは不明だが,米国オレゴン州の低所得者用医療保険「オレゴン・ヘルス・プラン」の管理部局には,“Cost, Access, Quality. Pick any two. ”という言葉が額に入れて飾られているそうである.すなわち,医療をコスト,アクセス,質の3つの要素に分けると,3要素すべてを満足させる医療システムは存在し得ない,と暗に述べているのである.翻ってわが国の医療システムをみると,国民皆保険制度により諸外国より廉価で医療を受けることができ,待ち時間などの問題はあるが特段のアクセス制限もなく,長い平均寿命,低い新生児死亡率,世界トップクラスのがん5年生存率など,かなり高いレベルで3要素をクリアしている.マスメディアは,この事実を十分に国民に伝え,さらにこの高水準を維持してきたわが国の医療システムが制度疲労に陥りつつある理由を正しく伝えているだろうか.病院/医師ランキングも,マスメディアには医療に関する情報を国民に伝える責務があるという金科玉条によるものかもしれないが,そのやり方は,興味本位的で医療全般に関する考察が乏しいとするのは言い過ぎだろうか.もちろん,各種ランキングの元となるアンケート調査に情報を提供しているわれわれ医療サイドにも責任がないわけではない.公開すべき情報を秘匿することは誤りであるが,情報の信憑性の担保も含め,国民に徒に混乱を招かないように一定のルール作りが必要な時期にきているように思う.
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