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本号の「扉」では,愛知医科大学の高安正和教授が,昨今の脳神経外科志望者の減少に関連して示唆に富むご意見を述べられている.決して容易とはいえない脳神経外科医への道を選んだ若者たちに,その夢を叶えさせるよう教育を施すのは指導者としての当然の責務である.そしてそのためには,まず指導者が「自分の手で顕微鏡手術ができるようになりたい」といった若者の純粋な思いに応えるだけの度量と愛情を持つこと,そして医療に対して向けられている社会の厳しい目に耐え得る安全かつ効率的な教育システムを創意工夫して構築することが必要と思われる.ずいぶん以前に術者と二人の助手,合計6本の腕が術野に出入りする故杉田虔一郎教授の手術ビデオを拝見し,その教育に対する姿勢とアイデアに感銘を受けたことを思い出す.この故杉田教授のDNAが高安教授に受け継がれていることを今回改めて知り,そこに「知識と技術の伝承」という教育の神髄をみたような気がする.目まぐるしく変わる社会情勢のなか諸事に惑わされることなく,顕微鏡を通して見る脳や脊髄の繊細さ,そしてそこに発生する病変を顕微鏡下に治療することのすばらしさをアピールすることは,3Kとも4Kともいわれる脳神経外科に新たな人材を得る大きな助けになるものと改めて感じ入った次第である.
米川泰弘教授の長編論文には,脳動脈瘤クリッピングについてご自身が受け継いだ知識と技術を,新たな形で次世代に伝承しようとする先生の強いお気持ちが表れているように思える.われわれが今立っている場所は,多くの先人によって築かれたものであり,われわれは次世代のために,その上に新たな城郭を築かなくてはならないのであろう.異国チューリッヒの地におられる米川教授だけに,今後の日本の脳神経外科を担う次世代への思いには大変に熱いものがあるように推察申し上げた.
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