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本号の「扉」には,西澤茂先生の「医療報道におけるマスコミの功罪」と題する原稿が寄せられている.今日の医療現場では,疾患に関する可能な限りの情報を患者に提供することにより,患者自身がその治療法について自由に判断できるよう促すことが求められている.フリーアクセスが保証されている日本の医療制度の中では,ときに患者はセカンドオピニオン,サードオピニオンを求めて多くの医療機関あるいは医師を訪ねることになる.もちろんこのような患者の行動は決して非難されるべきものではなく,むしろわが国の医療が成熟してきた証と捉えることができる.しかし,問題がないわけではない.患者に情報を提供する方法,あるいはその情報の信頼度が問われているのだと思う.医学は完成されたサイエンスではなく,医療行為には正と負の両面があることを公正に世に伝える責務を負っていることを,マスコミもわれわれ医療人も自覚しなくてはならない.小生の師匠である石井昌三先生(順天堂大学名誉教授)が,その昔センセーショナルにマスコミに取り上げられることを戒めて「名医と称せられる医者を頼って,患者が全国を行脚するようなことがあってはならない.理想とすべきは,全国どこであっても同様に高いレベルの診療が施されるよう日本の脳神経外科の実力を底上げすることである.」とおっしゃられたのを思い出す.
「解剖を中心とした脳神経手術手技」では,北野昌彦先生による「斜台近傍病変に対する拡大蝶形骨洞手術」が取り上げられている.斜台部病変への低侵襲な手術アプローチが解剖に即して詳細に述べられており,頭蓋底外科を志す者にとっては必読の論文である.また,「総説」では脳梗塞後の運動障害に対するmotor cortex stimulationの治療効果について,小倉浩一郎先生の経験された症例の報告と文献的考察がなされている.失われた神経機能を回復させる,機能的脳神経外科の究極のゴールに向かってわれわれの歩みが始まったことを実感させる内容の論文である.さらに,トロント大学の大坪 宏先生による「新・英語のツボ」の連載が本号から始まった.本誌は日本語の雑誌であるが,本連載が若手脳神経外科医の英文論文執筆を促すきっかけとなることを期待する.その他,本号に掲載された研究論文2編,症例報告5編はいずれも力作ぞろいで,脳神経外科の広い分野を網羅した読み応えのある2008年8月号となった.
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