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本号の「扉」に,安井信之先生から「ベン・ケーシーと美しい脳」と題する原稿をいただきました.安井先生ご自身が脳神経外科医を志した契機,さらに伊藤善太郎先生が急逝されたためにご自身が施設の責任者としての職務を負うことになった経緯などが紹介されています.一流の脳神経外科医として確固たる地位を築かれた先生の軌跡を知ることができる,読者にとっても興味深い一文であると思います.そして,そのなかで安井先生は,脳神経外科医の育成について厳しいご意見を述べられています.すなわち,本邦においては脳神経外科医が成長するチャンスは偶然によって与えられる場合が多く,外科医(術者)を育てる教育システムを組織的に構築する必要があるとの指摘であります.大学病院の脳神経外科を預かる立場として,私自身がこれまでどのような教育を若い世代に施してきたのか,思わず自分の胸に手を当て自問せずにはいられませんでした.年次ごとにある程度の到達目標を設定し,専門医試験を1つの区切りとして,その後は学位の修得,さらにsubspecialtyの知識・技術を学ぶといったコース設定は準備されていますが,果たしてそれが十分に機能しているのかどうか心配な部分もあります.国内外への留学,手術症例への曝露など,教育を受ける側の資質も大いに影響しますが,一方で偶発的に生じる「幸運」が左右するといった状況がない訳ではないのも事実です.
さて昨年度より,大きく改革された脳神経外科学会専門医認定制度のもとでの新たな専門医教育がスタートしました.この新制度は,「我国の脳神経外科医は,脳神経疾患領域の広い範囲にわたって,その予防,救急対応,診断,外科的・非外科的治療,周術期管理,リハビリ,長期予後管理などを一貫して担当する」という脳神経外科学会が定めた脳神経外科医の定義に則して専門医を育成すべく,旧制度を改変したものです.脳神経外科は基本的診療領域に属し,手術以外のさまざまな診療行為を担当する間口の広い診療科でありますが,一方で,外科技術の習得,すなわち外科医(術者)の育成は,その専門医教育のなかでも重要な位置を占めることは言うまでもありません.私自身を含め研修プログラムの責任者は,外科医(術者)を育成するための組織的な教育プログラムを,専門医試験の前後にまたがって構築することの重要性・必要性を改めて認識すべきなのでしょう.今回の専門医に関する制度改革は,安井先生が提示された命題,すなわち次世代の脳神経外科医をどのように育てるのかを真剣に考える機会を私達に与えています.そして私達には,若い世代が希望を持って進むことのできるキャリアパスを,明確に提示することが求められているのだと思います.
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