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この後記の執筆中は,京都大学の山中伸弥教授のノーベル医学生理学賞受賞に日本中の興奮が未だ冷めやらない時期です.ノーベル賞の日本人受賞者としては19人目,医学生理学賞の受賞は1987年の利根川進氏の受賞に続いて2人目です.今回の山中教授のノーベル賞受賞は,われわれ医師にも大きなインパクトと希望を与えてくれました.iPS細胞により再生医療への道が大きく開かれたことは言うに及ばず,さらに病気の原因究明や創薬といった分野においても極めて有用な手段となり得ます.みなさんご存じのように,山中教授はもともと整形外科医としてそのキャリアをスタートされました.ご本人は決して不器用ではなかったとおっしゃっていますが,「ジャマナカ」というあだ名がつくほど手術は不得意であったようです.その後薬理学の大学院に入学したのがきっかけで基礎医学者へ転身し,iPS細胞の発見へとつながりました.山中教授の経歴を拝見すると,われわれも「ひょっとすると」と思われる読者もいらっしゃるのではないでしょうか.山中教授がその著書の中に書かれている米国留学中に恩師から教えられた研究者としての成功の秘訣「VW」は,真に的を射た言葉ですので紹介させていただきます.V:Vision,W:Work hard,そのどちらも常に持ち続けることが大切です.
さて,本号も本誌ならではの多彩な内容となっています.「扉」においては,髙倉公朋先生から最近の尖閣諸島をめぐる日中外交問題に端を発し,国際友好関係の重要性についての示唆に富んだお言葉をいただきました.先生が早くから日露の友好に力を注がれた経緯を興味深く読ませていただきました.また,松成一朗先生の「総説」においてはアルツハイマー病の最新の画像診断について解説いただき,特に今後,早期診断のために大いに期待される脳アミロイドイメージングについてもご紹介いただきました.「研究」の,開頭術時に眼球にかかる圧の測定に関する論文は,警鐘を鳴らす意味からも意義があり,特に若い脳神経外科医に読んでいただきたい論文です.開頭時の眼球圧迫に伴う視力障害は極めて稀ですが,いったん発生すると重大な合併症となります.私自身も昔,苦い経験があります.連載の2編,「脳動脈瘤に対する血管内手術の基本手技」,「経蝶形骨手術の術後合併症」はたいへんわかりやすく要点がまとめられております.症例報告なども多様であり,内容の濃い号に仕上がっておりますので,ぜひ一読ください.
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