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本号の“扉”「オレゴンルールを越えて」は高橋宏先生のたいへん味のあるエッセイで非常に興味深く読ませていただいた.私としてははじめて耳にする言葉であったが,私自身オレゴン州のとなりのワシントン州シアトルに留学経験がありオレゴンにも何度か足を運んだ経験があることから,果たしてどんなルールだろうと読み進むと,いかにもアメリカ人が好むpragmaticなルール(Cost, Access, Quality. Pick any two)であると知って納得した.しかし医療を含め現在の日本の消費者には自由主義的思考と平等主義的思考がいびつにミックスされおり,このルールはこのままではなかなか適応できない.
さて,最近の日本の医療では医療崩壊などネガティブな面が強調されることが多いが,せめて脳神経外科において何かポジティブな面はないかと考えてみた.何よりわれわれには専門科選択の自由があり興味を持てば誰でも脳神経外科医になることができる.また,医療が過度に分業化されておらず,手術のみではなく患者の診断から保存的治療,手術まで幅広く携わることができる(他のいくつかの先進国では神経科医・神経放射線科医が診断を下した患者の手術のみを流れ作業のように担当している).ただしこういったシステムが医療の非効率化を生んでいることは否めない.また手術に際しては手術法の選択の裁量権が術者にかなり認められている(米国では保険会社に術式を指定されることがあるという).ただし,新しい治療法の導入に関しては厚生労働省の厚い壁が立ちはだかってなかなか進まないといった問題が存在する.意に反してネガティブな内容にも言及しまったが,今後日本の脳神経外科のポジティブな面を探して若い人にアピールしていくことも必要であると考える.私の最も尊敬する脳神経外科の先輩であり,日本のみならずアジアの脳神経外科の若手の教育に献身的に尽くされ,昨年の7月に61歳の若さでガンのために亡くなられた前名古屋第二赤十字病院脳神経外科部長・鈴木善男先生が日本の対極にあるインドについて語られた文章の中の一節を記す「日本において,脳神経外科という領域は,医療の中でも,もっとも贅沢な,あるいは,贅沢でなければならない分野である.すなわち,諦めることなど無縁の領域である」
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