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今日,脳神経外科医がカバーする分野は非常に幅広く,脳血管障害,血管内治療,脳腫瘍,脊髄外科,神経外傷,定位・機能神経外科,神経内分泌,小児脳神経外科などさまざま領域が含まれる.さらにリハビリテーションや,本号に掲載されている疫学に関するものまで広く扱われる.また,それぞれの分野の進歩は急速であり,1人の脳神経外科医として個々の分野についての基本的な知識をもって診療にあたることは大切であるが,すべての分野に対して最新の知識や技術を維持してゆくことは不可能である.そこでsubspecialtyを絞らざるを得ない.しかし,最近の若い人たちの中には,早くからsubspecialtyを1つに絞ってしまって他の分野に関心を持たなくなるものがいて,これも大きな問題である.個人の関心や適性は時代とともに変わっていく可能性があり,また,複数の分野に関心を持つことで他の分野の知識や経験を活かすことができ,結果的にそれぞれの分野の診療・研究の深みが増すこともある.そこで常々,若いうちは少なくとも2種類ぐらいのsubspecialtyを持つことをお勧めしている.私自身は,はじめ脳血管障害の臨床・研究に打ち込んだ時期があり,卒後10年ぐらいから脊髄外科を専門分野に加えた.次第に後者に関心が移って今日に至っているが,脳血管障害の分野で得た知識や経験は,脊髄外科を行うにあたり大いに役立っていると考えている.
さて現在,脳神経外科関連の雑誌はいくつかあるが,本誌「脳神経外科」は,脳神経外科の幅広い分野にわたるトピックスに関する論文が,臨床・研究を問わず掲載されているのが特徴である.自分の専門分野以外の記事を手軽に読むことができるのも楽しみであり,それが本誌の真骨頂でもある.本号の「扉」では,石内勝吾先生が「脳の可塑性について」というタイトルで神経科学について格調の高い文章を書かれている.ご自身では「脳そのものの理解は,無知に近い」と謙遜して述べられているが,先生の脳科学への造詣の深さを垣間見る思いであった.また,本号の総説では深谷親先生に定位・機能神経外科の歴史から最新の手技まで,多くの写真を用いて解説いただき,たいへん勉強になる.研究論文も興味深く,渡邉真哉先生の「カベルゴリン時代のプロラクチノーマの治療」は,現在下垂体腫瘍の治療から距離を置く私のようなものにも分かりやすい.安納崇之先生は独居者に注目した脳卒中に関する疫学調査について書かれている.先天奇形シリーズでは稲垣隆介先生が「くも膜囊胞」について分かりやすく解説されており,1編のテクニカルノート,6編の症例報告なども多彩であり,読み応えのある号に仕上がっている.
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