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本年5月6日から8日にかけて,第31回日本脳神経外科コングレス総会が開催されました.未曾有の東日本大震災で被災され,地元に甚大な被害を受け,その災害医療に昼夜を問わず奮闘されておられたのにもかかわらず,本総会を成功裏にまっとうされた小笠原邦昭会長をはじめとした岩手医科大学脳神経外科の皆様に,心から敬意を表します.
本総会は「脳神経外科医のProfessional SpiritとResearch Mind」の主題のもとに行われ,練りに練られたプログラムはどれも素晴らしいものであった. その中でも,私にとって特に印象的だったのは,プレナリーセッションの「ニューロリハビリテーションの進歩」であった.運動麻痺や失語症の改善に向けた新たな試み,ロボット支援,ブレイン・マシン・インターフェースが紹介された.ニューロリハビリテーションは,神経科学の実践・検証の場と言っても過言ではないだろう.再組織化(皮質機能再構築),半球間抑制,脱抑制などの神経科学的用語が頻繁に登場した.運動障害や失語症の回復に健常側(病巣の反対側)を連続経頭蓋磁気刺激(rTMS)で刺激すると機能予後が改善することや,皮質再構築が3カ月でピークになることなどが紹介された.それを知り,大変嬉しく感じた.と言うのも,15年ほど前に研究を行い,到達した機能回復の仮説に一致していたからである.周知のごとく,可塑性(plasticity)は脳のもつ基本特性の1つであり,脳卒中などの器質的脳疾患に伴う脳機能障害の回復も脳の可塑性に負うところが多いとされている.障害された本来の脳機能を代償すべくさまざまな脳活動の変化が生じる.残念ながらヒトの脳における機能代償の機序は未だ解明されていないが,それを探るべく,当時,新潟大学脳研究所に日本で最初に導入されたばかりの3テスラMRI装置を用いて,中田 力教授のご指導のもと,fMRIによる研究を行った.多くの諸先輩方・片麻痺患者の方々にご理解・ご協力をいただき,研究を遂行した.技師さんも,看護師さんもおらず,数人の研究者のみですべて自分たちで対処しなければならなかった.インフォームドコンセントはもちろん,自ら自家用車で患者を送迎し,MRI装置を操作し,データを解析し,ときには,最新鋭のMRI装置の修理さえ自分たちで行った.そんな苦労して遂行した研究から興味深い結果が得られた.
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