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去る2011年3月11日に発生した東日本大震災では,2次的に発生した津波によって多くの尊い命が失われる事態となりました.改めて,犠牲者の方々のご冥福をお祈りすると同時に,被災地にてご尽力いただいている医療関係者,ボランティアの方々の献身的努力に敬服の念を表したいと思います.医療安全でも行われているrisk managementでありますが,本災害では「想定を超える」規模により甚大な被害が出ており,また福島原発も「想定を超える」事態となっております.災害予防におけるrisk managementの困難な面を改めて痛感した次第です.一方,重大な危機(crisis)が発生してしまった場合には,crisis managementと呼ばれる対応が必要となります.今回の教訓は,起こってほしくない重大な事態(crisis)が生じた場合の準備(最小限の被害に食い止める算段)が不十分であったことかと思います.現在の危機的状況の原因には,起こってほしくない危機に対しては感情論から議論も避ける国民性があるようです.さまざまな国難が押し寄せている中で,感情論を捨ててcrisisの議論をするべき時期ではないかと思います.海外では,日本崩壊のシナリオまで話題となっているようです.
Crisisはさまざまな分野で生じており,医療も例外ではありません.初期臨床研修制度導入,医療安全への不安や訴訟の増加,医学教育改革など,さまざまなことが同時に起こり,まさに医療崩壊が叫ばれています.もはやrisk managementの段階を超えてcrisis managementの段階に入っているのではないかと思われる状況です.初期臨床研修制度の一部変更,医療安全への体制整備が進む中で,医学教育モデル・コア・カリキュラムが2010年度に改訂されました.この中で「医学研究への志向の涵養」が盛り込まれ,実践的知識の教育から,研究的側面にも配慮するように変更がなされました.さまざまな意見があるとは思いますが,従来のカリキュラムではスタンダードな教育によってボトムアップに貢献した反面,画一的な知識教育となってしまい,講義,実習自体の魅力が低下する(個性の消失)傾向も想定されます.また,年々変化する医学的知見に関しては,その知見自体の背景を知り,批判的な姿勢を常にもつこと(研究的考え方)も,ある意味で軽視されてきたかもしれません.さらに,専門教育の前段階でも,医学準備教育は重視された反面,リベラルアーツ(一般教養)の軽視によって人間教育に歪みが生じてきている傾向もあるかと思います.これらの結果,自己目標を掲げられずに,マスコミも含めた大衆に迎合する学生や研修医が増加してきているのが,医療崩壊の背景にあるのではないでしょうか.
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