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新しい年を迎えて,米国では1月20日,オバマ新大統領の就任式があった.前任のブッシュの負の遺産とも言うべき問題が山積しており,これからいろいろと解決すべきことが多いと思われるが,それにしても弁舌巧みなアフリカ系米国人の大統領の誕生は米国を熱狂させた.私が米国留学した30年前にはこのようなことが起こるとは全く考えられなかったので,米国の人々の興奮はよく理解できる.翻って,日本はどうだろう.ノーベル賞受賞者が4人も出たのは画期的なたいへん明るいニュースだった.しかし,それ以外に明るい材料が見当たらないのが残念である.多くの国民にほとんど支持されていない定額給付金が先ごろ支給されたが,一部でも社会保障費や国民医療費などのような福祉に回すならば,首相は100年に1人の名宰相として国民に記憶される良い機会であったろうし,われわれ国民もさぞかし政治に期待できたであろうとたいへん残念に思う.また,米国に端を発した世界不況の影響を受けて,米国頼みであった輸出も低迷し,意外なほど国内の景気が冷え込む中で,右肩上がりの経済至上主義の観点からは日本の屋台骨そのものが厳しい状況に陥っている.しかし,こういう時こそ,票や金にはならなくとも,好景気志向から脱し,低成長安定志向へと舵を切り,本格的に社会福祉の場などに雇用を創出してはどうだろう.ついでに,日本も経済大国と謳うことはほどほどにして,世界一流の科学研究立国を目指してはどうだろうか.物としての資源がないのだから,人を育てる目的で科学教育に力を注いでもらいたいと願う.武田信玄ではないが,人は国の宝である.さらに,日本の科学研究の社会ではまだまだ女性研究者が少なく,世界に伍した科学研究立国にするには,日本をあるいは世界をリードする女性研究者を育てることが1つの目標となろう.
米国がオバマ大統領就任に湧く同じ時期,中東世界に目を転じると,イスラエルのハマスに対するガザ地区への無差別爆撃が毎日のように報じられていた.どちらにも言い分はあるだろう.イスラエルとパレスチナには,エルサレムというキリスト教,ユダヤ教そしてイスラム教共通の聖地があるが,そこに神は存在しないのだろうか.国家は過去から学べず,人類もいつまでたってもそれほど進歩しない存在であることを証明しているかのようだ.イスラエルの過剰とも言える反応は,羹に懲りて膾を吹くといった必要以上の用心からのものではないと信じたい.
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