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Ⅰ.はじめに
悪性神経膠腫に対する高線量の放射線治療は,標準的X線分割照射治療と比べ腫瘍本体(main tumor mass)に高い治療効果を期待できる一方で,浸潤域(infiltrating area)では浸潤腫瘍細胞に対する効果と正常組織障害が同時に起こってくることへの対策が必要である.これまでの報告では,線量集中性の高い定位照射を用いたboost法が最も一般的で,過分割照射法,強度変調法や陽子線を用いた治療法も試みられてきた.これらの臨床試験では,膠芽腫での生存期間が20カ月を超えるとする良好な結果も含まれるが4,12,13,26,34,35,45),小規模なcase seriesが多く,生存期間延長効果がないとする報告もあり32,38,50),十分な評価を得るには至っていない.
1936年,Locherがアルファ線を利用した選択的な癌治療として,ホウ素の非放射性同位体(10B)と中性子の核反応の利用(中性子捕捉療法)を提唱してから70年余が経過した30).中性子を取り扱う技術的課題や原子炉施設の利便性から長い期間を要したが,近年になって実用的な中性子捕捉療法の治療シミュレーションが可能となり,従来の悪性新生物に対する放射線治療と同様,線量分布に基づいた臨床効果の判定ができるようになった.
中性子捕捉療法は,治療に用いる中性子ビームの特殊性から,限られた研究用原子炉で行われているのが現状である.国内の臨床研究は日本原子力研究開発機構(JAEA,茨城県)のJRR-4において行われ,現在6大学の研究グループが参加している.JRR-4における中性子捕捉療法の治療件数は頭頸部癌への適応拡大を契機に年々増加してきており,2006年の治療件数は26例,うち半分の13例が膠芽腫をはじめとする悪性脳腫瘍となっている(Fig. 1).また海外でも,HFR(High Flux Reactor,オランダ),FiR-1(Finnish Research Reactor,フィンランド),SRR(Studsvik Research Reactor,チェコ),NRIR(Nuclear Research Institute of Rez,アルゼンチン)などの研究用原子炉を中心に臨床研究が行われている.
中性子捕捉療法は,中性子を直接治療に用いるのではなく,ホウ素と中性子の核反応により2次的に得られたアルファ粒子線(および7Li粒子)を治療に用いる.腫瘍細胞選択的照射を行いうるユニークな高LET(linear energy transfer)粒子線治療として研究が続けられ,近年,汎用性が高く簡便に本治療を行うための小型加速器中性子源の開発も本格化しつつある.本稿では膠芽腫に対する中性子捕捉療法の現状について概説する.
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