扉
医療難民
大畑 建治
1
Kenji OHATA
1
1大阪市立大学大学院医学研究科脳神経外科
pp.289-290
発行日 2008年4月10日
Published Date 2008/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436100716
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頭蓋底部腫瘍の手術を長年行ってきましたが,最近特に気になる患者が増えています.それらは,低侵襲治療後のコントロール不良例と主治医喪失例に大別されます.それぞれが現在の医療事情を反映しており,さまざまなことを考えさせられます.これらの問題を通して,脳神経外科医の「外科医」としての心構えについて考えてみました.
低侵襲治療後のコントロール不良例とは,定位的放射線手術(SRS)後や部分摘出後の腫瘍増大です.SRS後では次の3つのパターンに分けることができます.治療限界型:疾患の特徴のため避けられない再増大(例:髄膜腫など),論文盲信型:有効であるとの論文を信じてSRSを行ったが有効ではなかった(例:頭蓋咽頭腫など),非常識型:SRSの適応を正当化する理由が何らみつからない(例:大きい腫瘍),の3つです.論文盲信型には学問的に論議すべき症例も含まれますが,寛容の度を超えた症例も多くあります.視交叉後方部頭蓋咽頭腫に何度もガンマナイフや放射線治療が繰り返し行われた例,手術で切除する努力をせずに生検にとどまりSRSを行いコントロール不良になっている例,等です.これらの患者は膨大な資料を持って混雑した外来を受診されるわけです.次の一手(手術)がある患者はいいのですが,手術の適応すらなくなった例では,その悪い結果を本人・ご家族にどう伝えるか非常に悩み,言葉すら出ないこともあります.
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