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Ⅰ.はじめに
てんかんは,脳の神経細胞の過剰放電によって繰り返し起こる発作を特徴とする慢性の疾患である.てんかんの本質が脳の電気生理学的異常に起因することは,1929年にBergerが発見した脳波の出現と3),その翌々年に報告されたてんかん患者の間欠期脳波異常の存在により疑いのないものとなった.その後,脳から直接記録する皮質脳波や脳の直接電気刺激の研究などを通して,てんかん発作症状と脳の機能局在との関連が解明されていった23).脳波による電気生理学的異常の検査は,脳磁図4),positron emission tomography(PET)14),single-photon emission computed tomography(SPECT)8)など優れた検査が出現した現在でも,てんかんの診断,治療の基本となっている.
てんかんの外科治療では,焦点(本稿では焦点という名称を用いる)を同定して切除することが原則である.しかし焦点として治療する領域を,発作起始を確認した領域と考えるのか,その周囲の発作を起こしうる領域を含むのか,さらに発作を起こす神経回路としてとらえるのかなどさまざまな議論があるので,手術ではどのような検査でどのような領域を焦点と診断したかが明確でなければならない.MRI病変の有無はてんかん手術の適応,治療成績を考える上で重要であるが,MRIで描出される異常域の切除だけでは治療は不十分である.てんかんの手術では電気生理学的検査による切除域決定が本質なのだが,てんかん波はミリ秒単位で周囲に急速に伝播していくため,高い時間解像力を有する最新のビデオ皮質脳波モニタリングや脳磁図を駆使しても,適切な治療域の決定は容易ではない.内側側頭葉てんかんにおける海馬のごとく焦点として確立した組織を有する場合を除くと,術前検査の解釈によっては焦点の領域が異なる場合もある5).
外科治療の切除域の定義を,てんかん発作を起こし,かつその切除で発作が止まる領域と考えると,この領域はLüdersらが提唱したてんかん原生領域(epileptogenic zone)16)に他ならないが,てんかん原生領域は単一の検査で決定することができない概念的な存在である.結局,術前検査ではMRIで構造異常域(structural lesion),PET,SPECTなどで機能異常域(functional deficit zone),脳波,脳磁図の電気生理学的検査で発作間欠期脳波異常域(irritative zone),発作起始域(ictal onset zone),臨床症状を呈する領域(symptomatic zone)を診断している.これらの領域がほぼ一致する場合には,焦点の診断は比較的容易であるが,これらの領域は必ずしも一致するわけではない5,16).
したがって,てんかん手術の切除域は,このようなマルチモダリティな術前検査結果の一致する領域,相違する領域を比較し,さらに各検査のもつ重要性を加味して決定される.しかし,実際にどのような検査に基づき,どの部位を焦点と診断し切除するのかは必ずしも明確ではない.焦点診断を明確にし,てんかん手術をわかりやすいものにするためには,マルチモダリティな術前検査を目にみえる形に画像化し検討する必要がある.
術前検査の画像化には,急速に発達したコンピュータ解析技術の進歩や,画像計測技術の進歩,さらに1993年に医用デジタル画像標準化のスタンダードとして発表されたDigital Imaging and Communications in Medicine(DICOM)の出現が大きな役割を果たしている.多大な労力を要しかつ一部の専門施設でしか行えなかった解析や術前検査の画像化が,パーソナルコンピュータレベルで行えるようになってきたのである.専門家や術者の頭の中で処理されて組み立てられていた焦点部位が画像化され,より客観的かつ科学的に診断,治療することが可能となってきている.
本稿では,まず術前検査として行う脳波,脳磁図などの電気生理学的検査やPET,SPECTによる機能画像検査をコンピュータ解析し画像表示する方法について概説する.次にDICOM導入により可能となったMRIへの重ね合わせ作業を通して,高い空間解像力を加え画像化した術前検査による焦点診断の有用性を提示する.最後に,てんかん手術戦略をたてるうえで,術前検査の画像化による焦点診断および術中ナビゲーションの果たす役割を展望したい.
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