Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
Ⅰ.はじめに
膠芽腫をはじめとするグリオーマの治療成績は,テモゾロミド,ベバシズマブなどの化学療法剤の開発や,放射線治療技術の進歩によって徐々に向上してきている今日においても,手術による可及的摘出が生存率を延長する重要な要因となっている3).その中でも運動野などeloquent領域のグリオーマの摘出は,神経機能を温存しつつ,かつ最大限の摘出を行うという,相反する命題を遂行することが求められる.その意味ではeloquent領域のグリオーマ摘出術は究極の機能神経外科手術ともいうことができる.
画像誘導手術とは,ナビゲーション技術を基盤とし画像情報を駆使した手術ということができる.グリオーマのような実質内腫瘍の場合,狭い術野の中では手術の指標となるランドマークに乏しく,特に皮質下の腫瘍摘出になると,錐体路のような重要な神経伝導路を,いかに顕微鏡下とはいえ肉眼的に同定することは不可能に近い.したがって,運動野などeloquent領域近傍のグリオーマ摘出術においては,機能MRI(functional MRI:fMRI)や拡散強調テンソル画像(diffusion tensor image:DTI)などの画像情報を駆使した術前プランニングに基づくナビゲーションは,現在ではその中核をなす重要な技術である17).
さらに,体性感覚誘発電位(somatosensory evoked potential:SEP),運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)などの術中機能マッピング,術中電気生理学的モニタリングは運動野近傍グリオーマの摘出術において,画像による解剖学的位置情報と機能情報を連結するという重要な役割を果たしており,これらも現在では欠くことのできない技術である11).
グリオーマ摘出術の問題点として,摘出に伴う解剖学的位置情報のずれ,すなわち脳シフトが挙げられる.上述のような綿密な手術プランニング,機能マッピング,モニタリングを行っても,術中の位置情報の大きなずれは,ときに重大な神経障害につながる危険性もある.また,そのためにeloquent近傍という重圧から過小な摘出にとどまってしまう可能性も十分にあり得る.近年,術中にMRIを撮影し,画像情報を更新して術中プランニングを行うことで,この問題点を克服することができるようになってきた15).術中MRIは,グリオーマ摘出に伴うこれらの問題点を改善していくために,今後発展,普及していく技術と考えられる.
本稿では,われわれがこれまでに取り組んできた術中MRIを用いた画像誘導手術の中で,最もその有用性が期待される運動野近傍グリオーマの摘出術について報告し,今後の課題や展望について考察する.
Copyright © 2013, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.