扉
エビデンスと匙加減
渋井 壮一郎
1
Souichiro SIBUI
1
1国立がんセンター中央病院脳神経外科
pp.759-760
発行日 2007年8月10日
Published Date 2007/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436100589
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大学を卒業し,脳神経外科医としての道を志して30年余りの月日がたつ.この間の脳神経外科診療の変貌ぶりは想像を絶するものがある.神経放射線学といえば,脳血管撮影と脳シンチ,さらには若いドクターは見たこともないと思われる気脳撮影のみで,当時,米国で脳腫瘍と診断された患者さんが持ち帰ったCTのポラロイド写真を見て,「どこが異常なんだろう」と皆で首をかしげた日を鮮明に覚えている.それもそのはず,それまでの脳の解剖学はすべて前額断が基本であり,どの教科書にも水平断の脳の構造は出ていなかったのである.CTの普及とともに,水平断での脳の構造に慣れてきた.さらにMRIが導入されると,再び前額断,さらには矢状断での確認もできるようになった.時代とともに新しい情報が入り,われわれの物の見方も変遷していく.
日常の診療において,稀な疾患を診断したり,自分の選択した治療が著効したりした際の心地よさは何とも言えないものがある.これらはすべてその人の経験に基づく判断であり,経験が多ければ多いほど,極めて稀な1例を診断する可能性も高くなる.回診中の教授のひとこと,カンファランスでの先輩の意見に,目の前の霧が晴れる思いをした経験はだれにもあると思う.しかしながら,多くの経験を積むには,長い年月を要する.だれもがはじめから多くの経験を持っていないだけに,判断の材料が必要となる.
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