Japanese
English
特集 聴覚の神経機構
聴覚機構の研究の過去,現在,未来
Auditory mechanism. Past, present and future
勝木 保次
1
Yasugi Katsuki
1
1生物科学総合研究機構
1National Center for Biological Sciences
pp.755
発行日 1981年8月10日
Published Date 1981/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1431905308
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- Abstract 文献概要
聴覚機構の研究の過去を振り返ってみると,19世紀の末期にH. von Helmholtzの共鳴説が,音波の物理学的研究と当時Cortiによって明らかにされた内耳蝸牛の構造に基づいて樹てられ,いっぽう英国におけるRutherfordの電話説は,内耳を音波の伝送器と考え,両説ともに脳内機構は想像の域を出なかった。
これより約60年を経てWever & Brayにより,蝸牛マイクロフォン電位が発見され,引き続きG. von Bekesyの説が現われた。この説は,巧妙な方法で観察された蝸牛内基底膜の運動に基づくもので,膜の運動は進行波であり,高音は基底部,低音は尖端部を主として振動させ,中間音がその中間に現われるというのであった。Bekesy自身は蝸牛における分析が予想したように精密なものでなかったので,脳内の分析機構をぜひ知りたくて,自ら電気生理学的実験を試みたがうまくゆかず,ついに断念したのであった。そして無生物を対照とする科学と,生物を相手とする場合とでは,実験方法に大きい差があり,前者は数学を基にした理論の実証が不可欠であるが,後者は異なって進化の過程を追うことが非常に大切であると述べ,自らもその方法を用いたのであった。筆者も同じ考えを抱いていたので共同研究の申出でによって,得難い機会と考え1968〜69年の2か年をハワイ大学感覚科学研究所で共同研究を行なった。
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