特集 神経学における最近の研究
<生理>
神経行動学の成立—比較行動学から神経生物学へ
桑原 萬壽太郎
1
1基礎生物学研究所
pp.693-694
発行日 1978年7月10日
Published Date 1978/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1431904896
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1.Ethology
ethologyという語は比較行動学というよりは行動生物学と訳す方が真実に近いと思われる。行動学というと,本来人間の行動の学であって,心理学の流れであり,それに比較をつけても,心理学的ニューアンスは払拭され得ない。ethologyというのは生物学である。近来,発生生物学とか細胞生物学とかいわれるのと同じ流儀で行動生物学とよぶ方が妥当と思われる。生物学的には,行動とは,動物個体が環境に対して示す総括的な動きを,それがその動物の存続に関してもつ意味の裏付けとして呼ぶ言葉である。そしてethologyというのは上述のような意味での行動の生物学なのである。したがって,ethologyの内容は,1)そのような生存目的に見事に適応した行動型が,どのような史的経路を経て,どのようにして成立して来たかという自然史的な方向と,2)そのような合日目的的,適応的な行動がどのような過程を経て,どのようなメカニズムによって成立しているのかというシステム解析的な方向とをふくむこととなる。
今ここで,取り上げるのはこの第二の方向である。つまり行動のマシーネリーの解析である。そして,その方向がethologyのすべてであるなどということをいおうという意志は毛頭ないことは強調しておかなくてはならない。
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