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特集 脳研究の進歩—東京大学脳研究所創立30周年記念
ヘルペス脳炎の病理成因について
The Pathogencsis of Herpes simplex Encephalitis
山本 達也
1
Tatsuya Yamamoto
1
1東京大学医学部脳研究所病理部
1Division of Neuropathoiogy, Institute of Brain Research, Faculty of Medicine, University of Tokyo
pp.380-388
発行日 1968年8月25日
Published Date 1968/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1431904516
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I.ヒトのヘルペス脳炎
単純性ヘルペスウイルスの感染により引き起こされる脳炎は,神経系のウイルス感染症のなかて主要な位置を占める。疑わしい脳炎例は,ヘルペスウイルスに対する血中抗体価の上昇,あるいは脳からウイルスを分離同定することにより診断が確定される。こうした試みが成功せず,または否定的な結果しかえられなかつた症例においても,脳の病変形態がヘルペス脳炎と著しく類似するためにこのウイルスの感染が疑われる幾種類かの脳炎群がある。急性壊死性脳炎はその代表例であつて,側頭葉を中心とする病変の局在性,細胞核内封入体の存在などに両者の近い類縁関係が示唆される(図1D)。
ヘルペス脳炎は,臨床的にいうと,新生児にみられる全身性ヘルペス感染症—とくに肝と副腎が強く侵される(図1B)—の一部分としての脳炎および主として成人において侵襲が脳に限定された感染という二つの型に分けられるが,いずれも,ごく急性に経過して転帰不良のことが多い。そして病理的には,きわめて個性的な変化を示すのであつて,これは第1に激しい組織の壊死が側頭葉,前頭薬の下面など特定の領域に集中するという病変の局在性,第2に神経細胞を始めとする脳の構成要素の著しい変性と崩壊,反応性喰細胞の盛んな増殖および細胞核内封入体の形成からなる病変の性質との双方に規定される(図1A,C)。
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