Japanese
English
特集 記憶
記憶の分子仮説
Chemical Theories of Memory in Molecular Basis
塚田 裕三
1
,
永田 豊
2
Yasuzo Tsukada
1
,
Yutaka Nagata
2
1慶応義塾大学医学部生理学教室
2東邦大学医学部第二生理学教室
1Departmemt of Physiology, School of Medicine, Keio University
2Department of the 2nd Physiology,School of Medicine,Toho University
pp.625-639
発行日 1966年12月25日
Published Date 1966/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1431904357
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I.はじめに
百億個以上もの脳の神経細胞は,お互いに非常に複雑きわまりない連絡をしており,それらの表わす働きは学習,記憶,推理などにとどまらず,豊かな創造的活動をも営んでいるわけであつて,最新式の電子計算機もはるかに及ばないすぐれた能力を持つている。生物は生活してゆく過程で種々の経験によつて得た情報をうまく利用して環境に適応してゆく。
このような生物の持つ体験を記憶と定義されているのであろうが,神経系のもつこの働きのみならず生物現象のなかにはこれと似よりの現象が数多く存在する。すなわち抗原抗体反応や免疫現象あるいは酵素の誘導現象なども細胞レベルで起こる生物特有の"recognition"の現象と解することができ,神経系で見られる記憶や学習の過程と基本的には同様な機作によるものと考えることもできる。最近の遺伝生化学の発展は,遺伝情報が核内のDNA分子にcodeされており,この情報は要にのぞんで伝令RNAによつて細胞質内の蛋白合成工場(リボゾーム)に伝えられ,そこではDNAの情報に従つて特異なアミノ酸配列をもつ蛋白質の合成が起こることがわかつてきた。すなわち情報の蓄積や伝達に高分子の核酸が決定的な役割をはたすことが確実になつたのである。このように生物における情報処理が高分子核酸によつて営まれていることが明らかにされるに従い分子のレベルで生物現象をながめることが近代生化学の課題のなかできわめて重要なものとなつてきたのである。
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