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特集 神経科学の仮説
仮説のすすめ
Hypothesis fingo
村上 陽一郎
1
Murakami Yo-ichiro
1
1東京大学教養学部科学史
pp.162-166
発行日 1984年6月15日
Published Date 1984/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425904580
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Ⅰ.我は仮説を造らず
科学一般のなかで,"仮説"と聞くと誰でも思い出すのはニュートンの言葉だろう。"我は仮説を造らず"(hypotheses non fingo)という言葉は,科学が経験主義の上に立っていることの厳然たる表明であり,経験的科学のマニフェストとして永らく語りつがれてきた。
しかし,多少歴史的な事情に立ち入ってみると,実はニュートンのあの言葉は,どうも必ずしも額面通りではないらしい,ということがわかってくる。そもそも,この言明が掲載されている『自然哲学の数学的原理』(Principia mathematica philosophiae naturalis)のなかには,実に数多くの仮説が使われているのだ。ニュートンは,「我は仮説を造らず」の言明の箇処で,「現象から導き出すことのできないもの」と定義した上で,それは「実験哲学においては所を得ることができない」と宣言する。しかし,例えば,この書物の中で提案されている有名な一つの概念,すなわち絶対時間(絶対空間)を取り上げてみよう。彼はその定義として,外の世界に全く関わりなく,一様に一方向に流れる時間という概念規定を与えている。これは何としたことか。
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