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老年期の特異な症例について—1911年
Alois Alzheimer
,
吉岡 愛智郎
pp.593-609
発行日 1965年9月25日
Published Date 1965/9/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1431904225
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1906年,私は初老期疾患の1例を記載したが,それは生前に既知の疾患とはちがう病像を呈し,顕微鏡的検査では大脳皮質に当時まだ知られていなかつた変化を示したものであつた。臨床症状に関しては,急速に発展し,短期問にもつともひどい程度にまで進行する痴呆が独特で,はやくから種々の,特に失語症や象徴不能症のような局所症状の前兆が認められた。局所罹患を考えさせる症状がなく,麻痺性,梅毒性,或は動脈硬化性の疾患に有利な拠りどころがなく,また患者はやつと56才であつて,臨床像も老年痴呆(Dementia senilis)のそれとは著しくちがつていたので,老年痴呆は除外できるように思われた。だから,この症例を既知の疾患にいれることはできなかつたのである。
顕微鏡像においては,Bielschowsky標本で,大脳皮質の神経細胞の特異な変性が目立つていた。その本質的な特徴は次の点にあつた。すなわち,その神経原繊維は一塊りとなり,その染色性を変じ,また,細胞の崩壊の後まで残り,そして,最後には,捲きついて糸毬のようになり,または,索状にまがつた原繊維束が,細胞の唯一の名残りとして,組織内に存在していた。これと並んで特異な斑点状の小病巣が異常にたくさん,大脳皮質一面にちらばつているのが見出された。
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