英国国営医療研究メモ・2
I.国営医療前史(続)—B.国家的強制医療保険時代—国民保険法成立(1911年)から国営医療法成立(1946年)まで 1.国民保険法(1911年)成立前後:‘自由主義的社会改良’時代(1906年から1914年まで)
姉崎 正平
1
1病院管理研究所
pp.66-67
発行日 1970年2月1日
Published Date 1970/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541203880
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世界に先がけ1830年ごろまでに産業革命を経過した英国は,19世紀後半,国内産業の発展と植民地政策の上に,未曽有の独占的繁栄を世界に誇った*.しかし,この繁栄も一皮むけば,いろいろな社会問題が山積していた.
19世紀が終わりに近づいてくると‘おびただしい富と同時に想像を絶した貧困’が英国社会に存在していることが気づかれ始め,‘貧困はおもに怠惰など個人的欠陥に原因し,経済成長はおのずと社会問題を解消する’というビクトリア時代的信念が揺らいできた.すなわち,救世軍のブース将軍の"暗黒のイギリス**",チャールス・ブース***とシーボン・ロントリー****をはじめとする一連の貧困調査,さらに南アフリカのボーア戦争(1899-1902年)の徴兵検査における驚くべき高率の身体的不適格者などは,ビクトリア時代の英国の繁栄のバラ色の夢を打ちくだくものであった.上記の貧困調査によれば,首都ロンドンおよび活況を呈していた工業都市ヨークの調査結果から推すと,全人口の1/3は,これらの調査者が定義した貧困層であった.その直接原因は,低賃金,多子,寡婦,疾病,老齢,失業などであった.
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