第3回神経病理懇話会 主題 脳腫瘍
〔主題講演5〕中枢神経系の組織発生と脳腫瘍の分類
藤田 哲也
1
Setsuya FUJITA
1
1京部府立医科大学策2病理学教室
pp.117-141
発行日 1963年1月25日
Published Date 1963/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1431901952
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I.腫瘍の分類
脳腫瘍に限らず私達が1つの腫瘍組織をみて,これに組織発生学的分類に従つて診断をくだす場合,私達は2つの判断を殆んど同時に行なつているのである。その1つは≪この組織が正常のどの組織に似ているか≫というアナロジーの判断であつて,この判断によつて私達はこの組織を分類することができる。いうまでもなく正常組織は静止したものではなく,1つの卵細胞から出発し次第に分化成熟してついには個体を構成する種々の特殊化した組織に変つてくるのであるから(第1図)正常へのアナロジーは,この発育段階の全てを含む正常組織に対して求められる訳である。第2の判断は≪これに対応する正常組織が(正常時に,可逆性に,あるいは退行性に)示しうる形態変異以上の乱れを,この組織が示している≫というヘテロロジーの判断である。私達はこの判断によつてこの組織が腫瘍であると知るのである。だから,腫瘍性の組織学的表現をカタプラジーという耳なれた言葉で現わすことにすれば,第2の判断はカタプラジーの判断だともいえる訳である。この関係をわかりやすくシエマに示すとカタプラジーの概念は正常組織のそれと共通するものを含まないのであるから(第2図)正常組織の載つている平面と直交する軸の上にきざまれることになる。理論的に腫瘍は,その≪正常組織へのアナロジー≫と≪カタプラジーの強弱≫によつて,この3次元空間のなかに定位されると考えることができる。
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