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I.脳内セロトニン受容体亜型とその細胞内情報伝達系
分子神経科学領域の研究の進歩により,各セロトニン(5―HT)受容体亜型をコードする遣伝子が1980年代後半から次々と単離されるようになり,また,それらの受容体亜型に共役する細胞内情報伝達系も明らかにされるようになって,薬理学的な受容体結合測定で予想されたセロトニン受容体亜型がその実態をいよいよ現わしつつあると言える。その詳細は成書に譲るが(Zifa E and Fil-lion G,1992),単離された遺伝子の塩基配列から7回細胞膜を貫通する構造を有し,GTP結合タンパク質と共役するセロトニン受容体亜型としては,(1)アデニル酸シクラーゼを抑制的に調節する,5―HT-1A,5―HT-1B,5―HT-1D受容体や,(2)フォスフォリパーゼCを活性化し,イノシトール―三―リン酸とジアシルグリセロール生成を促進し,Caイオンを動員する,5―HT-1C,5―HT-2受容体が知られている。一方,イオンチャネル複合体を形成するセロトニン受容体亜型としては,5―HT-3受容体遺伝子が単離されている。現在のところまだその遺伝子は単離されていないが,アデニル酸シクラーゼを促進的に調節する5―HT-4受容体の存在も薬理学的には証明されている。学会報告ではセロトニン受容体亜型をコードしていると予想される遺伝子がこの他多数単離され,今後,その詳細が明らかにされようとしている。したがって,種々の精神神経疾患におけるセロトニン神経機能や受容体-情報伝達系機能の異常が想定されているので,これらのセロトニン受容体亜型がその病態形成に対して果している役割についても次第に明らかにされるものと期待される。
ところで,5-HT-1B受容体は薬理学的な受容体結合測定によりRu 24969やpropranololに高い親和性を示し,ラットなどの囓歯類の脳に存在するが,ヒトなどの脳には存在せず(Hoyer et al,1986),代わりに5-HT-1D受容体が存在すると考えられてきた。しかし,最近,5-HT-1D受容体遺伝子とは68%しか相同ではなく,染色体座も異なる5-HT-1B受容体遺伝子がヒト脳に存在し,このヒト5-HT-1B受容体とラット5・HT-1B受容体のアミノ酸配列は93%相同であることが明らかにされた。では,何故薬理学的な受容体結合測定によってヒト脳での存在を証明できなかったのであろうか?ヒト5-HT-1B受容体遺伝子を細胞系に強制発現させ,薬理学的な受容体結合測定を行った報告(Oksenberg etal,1992)では,セロトニン自身のヒト5-HT-1B受容体に対する親和性はラットの5-HT-1B受容体に対する親和性と同じであるが,Ru 24969やpropranololのヒト5-HT-1B受容体に対する親和性はラットのそれに対する親和性より二十~千分の一程度ときわめて低いことが明確にされ,ヒトの脳組織標本での5-HT-1B受容体結合測定ができなかった理由が明らかとなった。しかも,ヒト5-HT-1B受容体遺伝子の塩基配列を置換し,355番目のスレオニンをラット5-HT-1B受容体のようにアスパラギンに変異させた受容体を細胞系に強制発現させると,この変異させたヒト5-HT-1B受容体はラットのそれと同様にRu 24969やpropranololに対する高い親和性を示したという。したがって,動物種差を示す5-HT-1B受容体の一つのアミノ酸が置換しただけで,薬理学的な性質をすっかり変えてしまうことが明確にされたわけで,動物に発現している5-HT-1B受容体に親和性を有する薬物が必ずしもヒトの5-HT-1B受容体に作用するとは言えないことを示している。5-HT-2受容体についても同様のことが知られている。ラットとヒトの5-HT-2受容体のアミノ酸組成は91%相同であり,多くの5-HT-2受容体阻害剤はラットとヒト脳組織を用いた5-HT-2受容体結合に対し同程度の親和性を示すが,mesulergineはヒト脳組織を用いた5-HT-2受容体結合に対する親和性がラット脳組織を用いた場合の三十分の一程度で低い。ヒト5-HT-2受容体遺伝子を囓歯類の細胞に導入し,ヒト5-HT-2受容体を強制発現させても,mcsulergineはラット脳組織を用いた場合に比し,三十分の一程度の親和性しか示さず,mesulergineのラットとヒトの5-HT-2受容体に対する親和性の差は細胞膜内の3ヵ所のアミノ酸配列の差によると考えられている(Hartig et al,1990)。したがって,動物に発現している5-HT-2受容体に親和性を有する薬物が必ずしもヒトの5-HT-2受容体に作用するとは言えないことを示している。
Serotonin basic neuroscience discoveries are envolving at a very fast pace and are leading to innovation in clinical psychiatry and in drug development. This review provides an appraisal of the contribution of possible alterations in the function of serotonin receptor subtypes to the pathophysiology and treatment of various neuropsychiatric disorders, including schizophrenia, affective disorders, anxiety, panic disorder, obsessive-compulsive disorder, alcoholism and Alzheimer-type dementia. 5-HT-2 receptor has been postulated to play an important role in the pathogenesis of affective disorders based on the several findings including up-regulation of 5-HT-2 (receptor binding sites in the postmortem brain of suicide and depressed subjects, and hyperresponsiveness of 5-HT-stimulated Ca mobilization mediated by 5-HT-2 receptors in platelets from depressed patients. In this review it is also discussed whether or not glucocorticoid receptor is involved in the up-regulation of 5-HT-2 receptors, since a variety of neuroendocrinological abnormalities have been detected in depressive disorder including the increase in cortisol secretion and the attenuation of cortisol suppression to dexamethasone.
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