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はじめに
脳神経系は,個性の異なる非常に多くの神経細胞の接続が形成する複雑な回路綱である。この神経回路網の構築,維持には,神経栄養因子と呼ばれる一群の細胞間分子が重要な働きをすると考えられている。従来,神経栄養因子に関する研究は,末梢の知覚神経,あるいは交感神経の生存に作用する因子として1950年代に発見された神経成長因子(NGF)について発展してきた。そしてNGFの研究を通じて神経栄養因子の基本的概念である,1)神経細胞の生存,分化維持作用,2)標的由来性,3)作用の細胞特異性,などが確立したといっても過言ではないだろう(図1)。さらに,1980年代以降,1)NGFの脳における存在と作用,2)脳由来神経栄養因子(BDNF),neurotrophin-3(NT-3)のクローニングによるNGF遺伝子ファミリー(neurotrophinファミリー)の発見,3) CNTF,LIFなどneurotrophinファミリーとは異なる神経栄養因子の同定,などを通じて神経栄養因子に関する知見が拡張されてきた。このように多くの神経栄養因子の存在が明らかにはなってきたものの,神経細胞の生存になぜ神経栄養因子は必要とされるのか,あるいは,神経細胞に対して神経栄養因子はどのような反応のカスケードを引き起こすのか,すなわち神経栄養因子の作用機構については長い間その大部分が不明のままであった。
しかし,この問題についても現在,大きな解明の糸口が開かれつつある。1990年代になって,neurotrophinファミリーに対する機能的受容体を構成すると考えられるtrkチロシンキナーゼ受容体ファミリーが発見されたのである。これにより,NGFファミリーの研究においてもようやく,その作用機序,さらに神経細胞の生存と死のメカニズムが本格的に扱えるようになってきたといえるだろう。この総説では,NGFファミリーに対する2種の受容体の構造と機能を中心として,神経系の構築,維持に果たす神経栄養因子の役割を論じたい。なお,近年明らかになってきたCNTF,LIF,IL-6などのサイトカイン系の神経栄養因子の受容体については別章を参照されたい。
Neurotrophic factors support and promote surv:val and differentiation of neuronal cells to establish the architecture of complex neural network. Nerve growth factor (NGF) is the most characterized neurotrophic factor and the first member of the recently identified NGF (neurotrophin) gene family. Recent progress in the study of receptors for neurotrophin family is reviewed in this article. Major subjects are addressed as follows.
I. Neurotrophin family : NGF acts as a target derived neurotrophic factor on sympathetic and sensory neuron in the peripheral nervous system, as well as on basal forebrain cholinergic neurons in the central nervous system. Purification and cloning of the brain-derived neurotrophic factor (BDNF) revealed striking similarity in the primary structure of NGF and BDNF and led to the identification novel members of neurotrophin gene family : NT-3 (neurotrophin-3), NT-4 and NT-5.
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