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I.はじめに
パーキンソン病は高齢者に頻発する神経変性疾患の一つであるが,その原因は未だ不明である。発症の機序として,何らかの化学物質が黒質線条体のドーパミン細胞を選択的に変性させるとの化学物質病因説が以前よりある。パーキンソニズムを惹起する外因性因子としては,抗精神薬服用や,マンガン中毒,COやCS2中毒が知られている。最近,N-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine (MPTP)が,ヒトにパーキンソン症状を発症させることが報告された1,2)。この物質は人工ヘロインmeperidineの合成中に誤って合成され,ヒトに静注するとパーキンソン病に類似した症状を発症させた。この症例での病理学的所見は,パーキンソン病の場合とほとんど同様であった。すなわち,脳の黒質のpars compactaのドーパミンニューロンが変性し消失した。MPTPを反復投与して,サル,イヌ,マウスなどにパーキンソン動物モデルをつくることができた。これらモデルの病理所見と生化学的変化は,ヒト自然発症のパーキンソン病の場合と類似していた。動物に投与すると,急性期の作用として,MPTPはドーパミン神経終末からドーパミンを放出し,チロシン水酸化酵素とモノアミン酸化酵素の活性を阻害した。in vitroの実験でも,MPTPはチロシン水酸化酵素を阻害した。
MPTPによるパーキンソン症状発症の機構は次のようである。還元型のMPTPは血液脳関門を通過し,脳内に取り込まれる。脳でグリア細胞とセロトニン細胞に存するモノアミン酸化酵素のB型により,酸化型N-methyl-4-phenylpyridinium ion(MPP+)となる3)。このMPP+が真の神経毒である。MPP+はドーパミンの再取込み機構により細胞内に取り込まれ4),黒質に存在するメラニンと結合し蓄積する5)。MPP+はドーパミン細胞の死,すなわち細胞変性を起こすが,その機序については未だ不明な点が多い。ミトコンドリァのComplex Iを阻害しエネルギー産生が阻害されるため6),または細胞内とくにミトコンドリア内での過酸化物の生成のため,との説が有力である。MPP+はさらに,in vitroでチロシン水酸化酵素7),モノアミン酸化酵素8),およびDOPA脱炭酸酵素9)を阻害した。このことから,MPP+は単にドーパミン細胞を変性させるだけでなく,カテコールアミン代謝に関与する酵素を直接阻害することがわかった。
Parkinson's disease is one of the most common neurodegenerative diseases among the aged. The pathogenesis of this disease has been intensively studied. The hypothesis that some chemicals elicit parkinsonism in humans is supported by the finding of a dopaminergic neurotoxin, 1-methyl-4-phenyl-1, 2, 3, 6-tetrahydropyridine (MPTP). MPTP was accidentally synthesized and induced symptoms very similar to those with Parkinson's disease, when it was administrated to humans. The pathological findings of the brain of a patient with MPTP-parkinsonism were almost the same as those in the patients with Parkinson's disease.
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