Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
脳を構成する複雑な神経回路綱の基本的単位である神経細胞は,細胞一般の中でもとくに著しく形態分化した細胞である。その刺激の伝達の方向にそった樹状突起,軸索,シナプス終末という非常に極性のある形態は,脳の機能にとり基本的に重要な意味をもっている。神経細胞の細胞骨格は,(1)このような極性のある形態の形成,維持のみならず,(2)細胞内の物質輸送(軸索流),(3)シナプス領域での化学伝達物質の放出と受容について,重要な役割を担っている。私達は急速凍結電子顕徴鏡法,生化学,免疫細胞化学,微量注入法,分子生物学などの学際的アプローチにより,これらの機能が主要な細胞骨格(アクチン,微小管,ニューロフィラメント)とそれに関連した多種類の結合蛋白により営まれていることを明らかにしてきた。すなわち,軸索はニューロフィラメント(NF)領域の中に微小管(MT)領域が散在し,樹状突起ではこれが逆転しており,シナプス前部・後部ではアクチン,アクチン結合蛋白を主体に細胞骨格が形成されている。MT領域には線維状蛋白である徴小管関連蛋白MAP1A,1B,2,タウ蛋白を主体とする架橋構造が発達し,軸索ではタウが,樹状突起ではMAP2が主に発現されている。これらの蛋白のin vivoでの機能を調べる第一歩として,タウのcDNAをクローニングし,in situ hybridizationや線維芽細胞への形質導入により,この蛋白がin viveで微小管の重合を促進し束を作り,神経軸索伸長の重要な基礎となることを明らかにした。
軸索内の物質輸送のうち,膜小器官の速い流れについて,微小管と膜小器官の間に存在する25nmほどの短い架橋構造ぶモーター分子であり,そのモーター分子キネシンの分子構造の詳細および局在また逆行性モーター分子の候補であるMAP1Cの局在などの解析を通して,速い流れの機構を明らかにした。また,このような細胞骨格蛋白自体を運ぶ遅い流れについては,従来細胞体で重合した構造が動くと考えられていたが,私達は標識蛋白の培養神経細胞への微量注入,その後のレーザー光による蛍光消退回復法や電子顕微鏡レベルの解析により,細胞骨格蛋白が重含体ではなくフリーのオリゴマーとして運ばれ,軸索局所で重合体に一定の極性をもって組み込まれることな明らかにすることができた。このことから,細胞骨格が軸索の中でも大変ダイナミックにターンオーバーするものであることが判明した。
Copyright © 1990, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.