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はじめに
1920年代初頭,神経解剖学の巨星Santiago Ramon y Cajalは次のように述べている。“Once the development was ended, the fonts of growth and regeneration... dried up irrevocably”。以来,一度損傷された中枢神経は二度と再生しないという概念は,近年に至るまで長い間信じられてきた。しかし最近,自己複製能と様々なタイプのニューロンやグリア細胞を産生する多分化能を持つ神経幹細胞の存在が明らかとなり,さらにこれらは個体の発生初期だけでなく,成体の中枢神経系においても維持されていることがわかった。現在,神経幹細胞は今まで困難であった神経変性疾患や外傷治療に大きな治療の可能性を与えうるものとして高い注目を浴びている。1980年代に入り,パーキンソン病を対象にした細胞治療が初めて報告され,それ以来現在に至るまで,中枢神経系に対する神経系細胞移植の研究は飛躍的な進歩を遂げた。これまで実際の臨床現場では胎児脳や脊髄を移植細胞として用いてきたが,これらの調達は量的にも困難であり,細胞移植の臨床応用への道は閉ざされかけていた。しかしながら神経幹細胞移植の概念は,これらの臨床応用における大きな障害を越えうる治療法として期待が持たれている。具体的にはこれらを生体より単離し, in vitro で思い通りに分化,増殖させることができれば,様々な神経難病や外傷への細胞治療に有効なストラテジーとなる。現在多くの研究者によって神経幹細胞の生物学的特性が研究されており,すでに臨床応用に向けて神経疾患モデル動物への移植も行われ,徐々に成果を上げてきている。さらに最近,ES細胞(Embryonic stem cell)から様々な種の神経細胞を誘導できるという報告もなされ,神経幹細胞と並んで移植医療への応用が注目されている。本稿ではこれら神経幹細胞,ES細胞を用いた分化誘導から,それらの技術を用いたモデル動物への,移植におけるup to dateな話題を中心に,これらの臨床へのアプローチに対する問題点も交えながら概説していきたい。
Recently there has become interesting in stem cell biology in neurological field. Neural stem cells were characterized about ten years ago, and it has been revealed that neural stem cells have self-renewal and multi-potent capacity and are maintained from early developmental stage to adult in mammalians. Furthermore it has been shown that neural stem cells and embryonic stem(ES)cells are able to be differentiated into certain neurons in vitro and in vivo, and furthermore the application of these stem cells for an efficient neural transplantation has been being studied. However there are still many basic problems for the therapic approach. Neverthless, instead of a drug treatment, the progress of stem cell biology would allow us to establish the new therapies for neurological disorders such as Parkinson's disease, Alzheimer's disease, ALS, and spinal cord injury.
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