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中枢神経系での情報処理は,興奮性神経細胞と抑制性神経細胞のバランスの上に成り立っている。興奮性神経細胞が可塑的にシナプスの伝達効率を高めるとき,抑制性の神経回路は抑制を強め,神経回路の総和としては常にバランスを取って,癲癇様発作が起きるのを阻まねばならない。抑制性神経細胞が抑制を高めるためには,GABAを多く分泌できるように,軸索を伸ばしてシナプス数を増したりもするであろうが,細胞増殖ででも対応する可能性が高まった。
はじめに
全ての動物の中枢神経系には,興奮性の神経細胞と抑制性の神経細胞が含まれ,二つの神経細胞が協調しあって情報処理を行っている。脊椎動物の興奮性神経細胞は,グルタミン酸やアスパラギン酸をシナプス小胞に溜めて分泌し,シナプスを形成している相手の神経細胞を興奮させる。それに対し,抑制性神経細胞はγ-amino butylic acid(GABA)やグリシンを分泌して,相手の神経細胞の活動を抑制する。興奮性の神経細胞と抑制性の神経細胞とが織り成す神経回路が学習をする際,シナプスの伝達効率の可塑的な変化(LTP and LTD)が起きる。これまでは,興奮性のシナプスにおけるものが重視され,抑制性のシナプスは付加的なものと考えられてきたことは否めない。しかし,記録が難しくデータが少ないことに由来する,抑制性シナプスの可塑的変化への関心の低さは,抑制性シナプスの可塑的変化の重要性を,微塵も侵すものではない。個々のシナプスではなく,神経回路にあるシナプスを,総和として考えるとき,興奮性のシナプス数や効率のみが増加すると,両者のバランスが崩れる。両者のバランスが崩れると,興奮性神経細胞は,より過剰に他の神経細胞を興奮させ,再び出力元の興奮性細胞がより興奮状態に置かれる。結果,連鎖反応的に全ての神経細胞は,過剰の興奮状態,癲癇様発作状態に陥る。これは制御棒を失った原子炉状態であり,電気コンセントの両極に一本の銅線の両端を挿入した状態と同じである。それ自身ではもはや正常な状態に復帰することはできずに,爆発的なエネルギー消費が起こり,消費されたエネルギーは全て,神経回路の破壊に使われてしまう。細胞間隙にはグルタメイトが充満し,カルシウムが小胞体から放出され,神経細胞死が起きると考えられる。
In the central nervous system, information processing relies on the balance between the excitatory neurons and the inhibitory neurons. Once if excitation dominates in the circuit, epileptic discharges of excitatory neurons start to destroy the circuit. Therefore, when the excitatory neurons enhance their synaptic transmission by plastic changes, inhibitory neurons must enhance their inhibitory effect and regulate the circuit. To enhance their inhibitory effects, inhibitory neurons may extend their axon branches and increase synaptic number. In addition, we propose that the inhibitory neurons will enhance their inhibitory effects by increasing the cell number in the circuit.
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