Editorial
客観から主観へ
中島 孝
1
1独立行政法人国立病院機構 新潟病院
pp.197
発行日 2015年3月15日
Published Date 2015/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1429200134
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現代医療は「Medicalization(医療化)が進んだため,医療に無駄(medical futility)が増えており,無駄な医療を中止し導入を控えることで無駄を減らすことができる」といわれ,その条件についての議論が絶えない.そこには極端な反科学的なものから,復古概念,新優生学,合理性の仮面を持つ似非科学まである.それらに対して,現代医療やアカデミズムは十分な科学的回答や対案を示そうとしてこなかった.下手に回答すると無限の医療費や社会資源が必要になるのではと危惧しているのである.治らない病気の大洪水の中で,急性期医療や医療福祉行政施策の企画立案運営担当者は,真の課題を見失い,大きく混乱している.
本稿の基礎となっている英国緩和ケア(1967年〜)と日本の難病対策(1972年〜)から考えれば,回答は明らかである.現代医療の問題は,単に健康概念によって持ち込まれた「健康が一番」「健康増進」「病気を早く治す」というかけ声の下で推進されている医療に由来している.そこでは,治らない病気の人は,どんな軽症であろうとも,否定され,落ち込まされ,「ケアしても治らない」と,医療や福祉を通してさらに否定されるしかないのである.いくらサポートしても,治療しても,患者や家族は満足できず,活き活きと生きることができなくなっている.人々から希望が失われ,活力が低下し,空虚な鼓舞はあるものの,際限のない依存社会に陥ってしまう.
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