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はじめに
日本の国家免許は国際社会でも高い質を維持するものと認められているだけに,日本社会で免許(ライセンス)を得る意義は大きい。
保健師,助産師,看護師の免許とは,その業務に必要な知識・技術を評価され,一定水準をクリアした証である。その国家試験とは,換言すれば,看護基礎教育を履修した学生が,専門職業人としてスタートできるか否かを判断することである。保健師助産師看護師国家試験(以下,国家試験)に関しては,運転免許取得試験のように,一般試験と実技試験の2本立てではなく,知識を問う一般試験,いわゆる学力試験のみであることが課題であることが繰り返し指摘されている。実技試験がないとすれば,一般試験での評価をどのように設定すべきかなど,国家試験をめぐる議論はやむことがない。
2004年,厚生労働省は国家試験問題のweb公募制を開始し,プール制度導入を前提に,質の高い試験問題を多数確保することにした。全国の看護教育者に出題を求めるという方法は,教員を国家試験実施後の批判者としてだけでなく,試験問題作成者として巻き込むという意味で,注目に値する。
公募の要項にあたるものとしては,看護基礎教育のミニマムラインを定めた保健師助産師看護師国家試験出題基準(以下,出題基準)と,厚生労働省による「保健師助産師看護師国家試験公募問題作成マニュアル」(以下,作成マニュアル)とがある。
これまでに筆者は,国家試験の模擬試験問題の作成に関するさまざまな機会を得て,厚生労働省主催の,作成マニュアルを解説するセミナーにも参加した。その時には,試験問題作成時には出題基準をまず確認し,作成マニュアルを活用することを心がければよいのだと簡単に考えていた。しかるべき看護教員に国家試験の模擬問題作成を依頼する時にもそのように助言していた。しかし,そう助言したにもかかわらず,できあがって送られてきた試験問題には,(1)出題の意図が不明,(2)レベルが高度すぎるため難解,などの傾向が見受けられた。作成者は実力ある教員たちである。それでも看護基礎教育の水準がどの程度であるのか,また国家試験という免許取得のための評価,あるいは評価理論の理解不足が考えられた。さらにいえば,作成マニュアルに書かれている単純な留意点さえ守られていないこともあったが,これはわずらわしさが先にたち目を通さないこともあるのだと判明した。
web公募の応募数は依然として少なく,絶対数は不足のようである。再再度,公募され,国家試験問題作成セミナーは定期的に開催されている。これは,妥当性をもつ試験問題の作成を現場の教員が果たせているかどうか,首肯し得ないのではないかと判断せざるをえない。そしてそれはすなわち,国家試験を維持していくためには大きな課題として残ることになろう。評価を理論的に捉え,試験問題作成の本質をふまえないかぎり,毎年,「不適切な」出題による採点時の混乱や,合格率の乱高下が繰り返されることになりかねない。もし,より簡便に試験問題を吟味できれば,いわゆる良質の試験問題を作成することに寄与する可能性があるであろう。
さらに,看護基礎教育課程で日々行なわれている評価においても,評価方法によっては教育成果にまで影響を及ぼすことになる。例えば,単純真偽形式ばかりの試験問題では,知識を暗記していくことを積み重ねるだけとなり,解釈や判断能力は育成されない。
このように試験問題作成能力とは,国家試験のあり方とともに,看護基礎教育全般にわたって大きく影響するものであり,我々看護教育に携わる者にとっても常に批判的に検討しなければならないものである。そこで本稿では,試験問題作成に必要と考えられる,評価理論と試験理論についてまとめてみた。
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