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私は高校生のときに「脳」や「こころ」に興味を抱き医学部進学を決めた。進学後もその興味の対象が変わることはなかったが,ポリクリなどを経て脳神経に関連する診療科の中から最終的に脳神経外科を選択した。医学部卒業とともに当時の東京女子医科大学脳神経センター脳神経外科学講座へ入局し,先輩方から最初に勧められた書籍の中の1冊が本書である。言わずと知れた神経学入門書の定番である。私が本書を手にしたのは入局間もない1986年で,改訂12版第4刷である。第1版は1966年10月20日発行となっており,現在の最新版である改訂18版が2016年に出版されるまで実に50年という長い年月にわたり読み継がれてきたことになる。
改めて手元にある本書をめくってみると至る所に勉強の跡が残り,本書以外のコピーもいくつも挟まっており,自分なりにまとめた記述もいくつも見られる。学生時代のポリクリで神経所見の取りかたをある程度は学んだが,当然のことながら身についておらず,また現在の初期研修期間などはない直接専門領域への入職であり,いきなり専門的な臨床の現場に出た状態であった。私の学生時代の不勉強も相まって,患者さんと急に対面しても神経所見など取れるはずがなかった。先輩方に教わりながら本書と首っ引きで患者さんに対応していたことを思い出す。新患が入院してくると神経所見を取るための器具が並べられた金属のトレイとまっさらな紙カルテを持ってベッドサイドに行き,すべての神経所見項目を埋めていくのが研修医の仕事であった。打腱器は私物を持ち歩きいつでも神経所見が取れる状態とし,トレイには眼底鏡もあったので散瞳薬を使わずにある程度の範囲の眼底を観察した。本書には「眼底検査の要領」という項目もあり,初学者にとってはまさにかゆいところに手が届く逸品であった。
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