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はじめに
アルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)は記憶障害を中核症状とする神経変性疾患である。その病態としてはアミロイドβ蛋白の蓄積を起点とし,異常リン酸化タウ蛋白の蓄積,シナプス障害,神経変性に至る一連の連続的な病態の連鎖と想定され,アミロイドカスケードと呼ばれ広く受け入れられている。病理学的には細胞外の老人斑(アミロイドβ蛋白)と,神経細胞内の神経原線維変化(異常リン酸化タウ蛋白)が特徴であり,主に海馬周囲などに進行性の脳萎縮をきたす。AD発症の危険因子の中でも特に大きい要因として,加齢とアポリポ蛋白E(ApoE)の遺伝子型の1つε4が同定されている。
糖尿病は従来,脳血管性認知症の発症要因になることは報告されてきたが,近年ADの発症とも関連するという知見が蓄積されてきている。食生活や運動習慣などの社会生活環境の変化に加えて,人口構造の高齢化という先進国に共通した社会的問題もあり,糖尿病とADの罹患者数は,負の相乗効果をもって増加の一途をたどっている。糖尿病患者では,血糖値ばかりでなく,インスリン濃度にも異常をきたし,加えて治療や動脈硬化,代謝異常などさまざまな因子が脳に影響し得る。1型糖尿病患者では,学習や記憶は保たれているが,思考速度や柔軟性が軽度低下しており1),高血糖下においては,思考速度の低下をきたす2)。これまでの知見から,糖尿病が認知機能低下を促進する病態として①低血糖性昏睡,②慢性的な高血糖とそれに伴う酸化的ストレス,③脳血管障害,④インスリンの脳への直接的な影響などが挙げられている。
このように糖尿病患者においては,さまざまな要因が互いに交絡しながら脳の機能低下をきたし得るが,「糖尿病がADの発症要因となるか」という問いに答えるには,疫学,基礎研究,神経心理学,神経放射線学,神経病理学などの集学的な検討が必要である。本稿では主に疫学研究と画像研究の知見を軸として,糖尿病が脳に与える影響やAD発症における背景病態との連関について概説する。
Abstract
Several evidences from longitudinal epidemiological studies have demonstrated that diabetes significantly increases the risk of Alzheimer's disease (AD). The underlying pathophysiologies that link diabetes and development of AD are, recurrent hypoglycemia, antioxidative stress due to hyperglycemia, atherosclerosis and vascular lesions, and abnormal insulin signaling in the brain. Emerging evidences from neuroimaging studies of diabetic patients can shed light on the pathomechanisms linking diabetes with AD. In this review, recent neuroimaging findings for diabetes are described.
Diabetic patients have diffuse cortical atrophy with notable vulnerability in the temporal lobe. Hyperinsulinemia and hypoglycemia increases cerebral blood flow and metabolism, while hyperglycemia decreases. Diabetes may facilitate the onset of AD via vascular lesion, poor vascular responsiveness, and aberrant amyloid metabolisms, probably through atherosclerosis. Studies on the brain of patients with diabetes may provide clues for preventive therapy in AD.
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