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はじめに
超高齢化社会の到来が確実視されているわが国において,認知症患者は飛躍的に増加し,現在は200万人を突破している。認知症患者の多くを占めるアルツハイマー病(Alzheimer disease:AD)の病態解明と,その治療および診断方法の確立は早急に解決すべき重要な課題である。現在,抗コリンエステラーゼ阻害薬であるドネぺジル(アリセプト®)が唯一のAD治療薬として利用されているが,早期からの使用で一過性の効果発現に活路を見出さざるを得ない現状は,認知症診療に関わる臨床医や研究者にとって大きなジレンマである。
われわれは1990年代から,ADの病理学的変化を反映するサロゲートマーカーとして,α1-アンチキモトリプシン(antichymotripsin:ACT),Aβ蛋白(Aβ),タウの脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)検査が有用であることを報告してきた1-4)。しかしながら,根治的な治療法がないという状況において,早期診断を念頭に置いたバイオマーカー開発は,遺伝子診断に匹敵するほどハードルの高いものと捉えられていた。したがって,積極的にこの開発に携わる臨床家・研究者はごくわずかで,われわれがこの時点でその重要性の認識を周囲に求めるのは酷な状況にあった。
こうしたフラストレーションに苛まれる長年の懸案を一掃し,バイオマーカー開発に光明を当てる契機となった特筆すべき報告がAβワクチン開発である。このAβワクチンによる根本的治療法がいよいよADでも利用可能になりそうだとの期待は,これまでハードルの高かった根本治療のための早期診断,その際に不可欠なツールとしてのバイオマーカーに明確な整合性を与え,治療と一体化したADのバイオマーカーとしてその存在意義が認識されるに至った。この結果,バイオマーカー開発には消極的であった多くの研究者も,この領域に参入し現在に至っているわけである。
最近公表されたヒトAβワクチン臨床治験結果では,沈着した老人斑アミロイド除去には成功しているにもかかわらず,神経原線維変化による神経変性と認知症の進行を阻止することができなかったと報告されている5)。すなわち,アミロイドカスケード仮説(Fig.1)で,老人斑アミロイドの下流に位置していると考えられる異常リン酸化タウ蓄積やシナプス・神経細胞障害が加速度的に進行している認知症進行例では,老人斑アミロイドを標的とした治療では不十分なこと,したがって認知症の前段階である軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI),さらに認知機能発症前の段階で,こうしたAβワクチン治療を開始するべきであると考えられるに至った。MCIからADへと進行し得る患者予測など,バイオマーカーにも発症予測を念頭に置いたスクリーニングバイオマーカーや,特異的にAD診断を可能とする診断目的のバイオマーカーなど,その開発には予防と治療介入を視野に入れた質的に異なるバイオマーカー開発研究がなされるようになってきている。
Abstract
The possibility of that Alzheimer disease (AD)-modifying treatments such as amyloid β-protein (Aβ) immunotherapies being available raises an urgent need for biological markers that will facilitate early and accurate diagnosis. This concept is now widely accepted,because without doubts that such treatments should be initiated during the early stages of the disease. In this review,we discusses the recent progress in identification of biological markers by placing a particular focus on Aβ and tau.
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