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2008年11月に,中国の漢民族と西アフリカのヨルバ人の全ゲノム配列の解析結果がNature誌上に発表された。1,000人ゲノムプロジェクトという国際コンソーシアムによる研究では,1,000人の全ゲノム配列の収集と解析が進められている。このように,ゲノムの解析技術の発展には目覚ましいものがあり,パーソナルゲノム(個人の全ゲノム配列)を数週間程度で取得することが可能になってきており,数年後にはさらに解析技術が1桁も2桁も加速するといわれている。このような技術革新により,パーソナルゲノムに基づく研究が今後飛躍的に発展することが期待されている。これまでのゲノム研究は頻度の高い多型を目印にして,疾患との関連などを調べるだけであったが,パーソナルゲノム時代になれば,ゲノム上のすべての多様性に基づき,疾患との関連性や,環境要因との相互関係などを調べることができ,病態機序の理解が飛躍的に進み,疾患の診断,治療,予防という面で大きな恩恵を受けることができるという期待が高まる。
一方で,パーソナルゲノムは,個人の究極のプライバシーと言える情報であり,個人のプライバシーの保護など研究倫理面について,これまでの研究と比べて,より一層の適切な配慮が求められる。インフォームドコンセントのあり方も,パーソナルゲノム時代に対応したものが求められるようになってくる。また,パーソナルゲノム時代の疾患研究は,ゲノム配列だけでなく,詳細な診療情報を含めた総合的な研究が必須となる。したがって,研究パラダイムもこれまでのものとは大きく変わる可能性がある。わが国でも次世代シーケンサーの導入は進み始めているが,パーソナルゲノム時代の研究をどのように進めるのか,総合的なビジョンの構築が喫緊の課題となっている。
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