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神経疾患,中でも神経変性疾患は,病因不明の神経難病として位置づけられていたが,遺伝性疾患については,分子遺伝学的研究の発展により,多くの疾患で病因遺伝子が発見され,病態機序の解明が進み,治療法開発を目指した研究が活発に進められるようになっている。一方,大多数を占める,孤発性の疾患については,ゲノム配列の多型性を網羅的に調べることで,疾患感受性に関連する遺伝子を同定しようという研究が盛んになってきている。現在行われているアプローチは,頻度の高い多型性(common variant)を用いた解析であり,孤発性の神経変性疾患にどの程度有用であるのかについては未知の部分もあるが,現在取り得る有力なアプローチの1つであると期待され,このようなアプローチにより,孤発性神経変性疾患の発症機構についての手がかりが得られ,さらには有効な治療法の開発が期待される。
本特集は,神経疾患の治療法に焦点を当てて特集を企画した。これまでに確立されている神経変性疾患の治療法の多くは,症状を改善することを目指したものである。しかしながら,本当に望まれるのは,病態機序そのものを改善することにより,病気の進行を止めること,さらには,病気を治癒させることである。これを実現するためには,分子標的治療と呼ばれるような,病態機序に直接的に迫るような治療法の開発が望まれる。神経変性疾患は数十年という長い時間軸の中で進行するものであり,したがって,そのような長期の時間軸の病態機序を解明するために最適化された,in vitroからin vivoまで包含した研究の展開が必須である。さらに,臨床治験においても,数十年という時間軸で進行する疾患に対して,どのような臨床治験のパラダイムが最適であるかという点についても,新しい考え方が必要である。例えば,5年という長期にわたる,placeboを用いたランダム化比較試験が果たして適切であるか,という問題がある。このように,非常に長い時間軸で進行する神経変性疾患に対して,病態機序解明研究の最適化,臨床治験の最適化,という2つの点で,新しいパラダイムが求められている。本特集がそのような問題を考えるきっかけになればと願っている。
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