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はじめに
この20年の間に,悪性脳腫瘍に対する集学的治療の内容は飛躍的に充実した。手術を支援するさまざまな機器の発達により,脳機能を温存しつつ腫瘍を最大限に摘出する手術が可能となり,施設によってできることに差はあるものの,少なくともその方針の妥当性は広く認識されるようになった。化学療法では,テモゾロミドの出現により悪性グリオーマの治療成績もわずかではあるが改善が期待でき1),大量メトトレキセート療法により脳原発悪性リンパ腫の治療成績は飛躍的に改善し2),プラチナ製剤を主力とする化学療法により,悪性胚細胞腫の治療成績も一定の改善をみている3)。放射線治療の内容はというと,これまで行われてきた局所あるいは全脳に対する分割照射(conventional radiation therapy)が依然golden standardであるものの,ガンマナイフをはじめとする定位放射線治療の普及により治療の幅が大きく広がった。これら悪性脳腫瘍の集学的治療は,いずれも放射線治療なしでは考えられず,放射線治療は依然,悪性脳腫瘍治療の中心的役割を果たしていると言っても過言ではない。悪性脳腫瘍の治療成績を考えるとき,生存の期間(survival time)と質(quality of life: QOL)の両方を考えなければならない。悪性脳腫瘍治療後の5年生存率はこの20年間,腫瘍の種類によって差はあるが,おおむね不変ないし若干の改善をみるのみであるが,2年生存率あるいはprogression free survivalになると,どの腫瘍でも飛躍的に改善している。これは初期治療で局所コントロールが十分にできるようになったことと,初期治療後のQOLが向上したことに起因していると考えられる。初期治療後のQOLの向上には,上述の手術方法の改善と放射線の照射法の改善が大きく寄与していると考えられる。それほど遠くない昔,悪性グリオーマに対して全脳照射が広く行われていた時代もあった。
初期治療後,急速に認知障害が進行するため仮に寛解導入できたとしてもQOLは不良で,初期治療後,離床できないまま腫瘍再発をきたし死に至る症例も多々みられた。照射範囲が局所照射に変わってからQOLが格段に改善したという経緯がある。昨今,上述のconventional radiation therapy,定位放射線治療以外に,中性子捕捉療法,強度変調放射線治療,tomotherapy等々,さまざまな種類の放射線治療が単独のみならず組み合わせでも行われつつあり,このあたりで一度QOLに多大な影響を及ぼしうる,これら放射線治療による正常脳組織障害を再認識することは極めて重要であると考える。
本稿では,これまで報告されている正常脳組織に対する放射線障害をreviewし,標的となる組織,細胞,分子機序などを整理して解説する。
Abstract
Radiation-induced brain injury is a life-threatening or at least QOL-compromising pathological entity induced by therapeutic irradiation to malignant brain tumors. Although life-threatening late delayed radiation necrosis and radiation-induced leukoencephalopathy had been assumed to be major complications of radiation therapy to the brain classically, these complications seem to be less frequently seen in therapeutic irradiation to the brain recently because in many treatment protocols to brain tumors, irradiation field is now confined to tumors and their margins and adjuvant chemotherapy consisting of methothrexate etc. has been avoided as much as possible. Instead, less aggressive but still QOL-compromising encephalopathy has been recognized for the past 20 years. This encephalopathy occurs in senior adults several months after the extended field irradiation with even less amount of irradiation dose such as 40 Gy whole brain irradiation. This encephalopathy is characterized by cognitive impairment and brain atrophy which attenuates QOL of the patients. In this article, these radiation-induced brain injuries are reviewed clinically, etiologically and hisotopathologically based on reports in the literature.
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