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はじめに――コンサルテーション・リエゾン精神医学
筆者が糖尿病とその治療によって引き起こされるこころの問題を扱いかねてジョスリン糖尿病センターに留学したことは再三述べた.その中に以下のような症例があった.20歳代女性で1型糖尿病,慢性疼痛,神経性大食症(過食症)などの症状/障害があり,自殺企図,夫婦間および家族内問題を抱えていた.
筆者ひとりではアプローチの道筋を立てられない状況で,メンタルヘルスの専門家に尋ね回った.専門家の先生方は,ある部分についてはアドバイスをくださったが,別の部分(例えば1型糖尿病)については「全くわからない」ということで,結局,この人の抱える問題――あるいはこの人全体――をどう治療していけばよいのかわからないままであった.
後にジョスリン糖尿病センターでこの症例を紹介したところ,アラン・ジェイコブソン博士はじっと聞き入っておられて(うなずきもなしで――筆者の英語が通じていないのかと不安であった),発表が終わると一言,「面白い」とおっしゃった.それに続いて以下のように語られた.「アメリカ人と日本人は異なる文化的背景を持つ,隔たった人々だと思っていた.しかし,同じ困難に出会うと,とても似通った反応をすることがわかった.とても興味深い.私たちはそのような問題について多くの経験を持っている.あなたにいくつかのことを教えることができる」
その時,筆者の心がどのくらい晴れ晴れとしたか,想像していただけるだろう.しかし,日本へ帰る頃になって,あるいは帰ってから,また考え込むようになった.このような問題を一緒に考えてくれる精神科医は日本にいるのだろうかと.
そんな折,たまたま東京で行われたコンサルテーション・リエゾン精神医学の会にお呼びいただいた.そこでお会いしたのが,糖尿病のコンサルテーション・リエゾン精神医学をやっておられた堀川直史先生であった.どれくらい嬉しく思ったか,これも想像していただけると思う.
先生は,糖尿病教育入院患者にもかかわっておられたし,透析患者にもかかわっておられた.サイコネフロロジー領域は先生方が中心となって発展させられたものと理解している.前論文(p 127)は堀川先生の長年の経験に裏付けされた透析患者の心の問題とそのケアについての解説である.そのなかから筆者(石井 均)も強調したいところを取り上げてコメントする.
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