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はじめに
近年,糖尿病患者の急激な増加が報告されている.2007年の厚生労働省の国民健康・栄養調査において,糖尿病が強く疑われる人〔HbA1c(JDS値)≧6.1%〕は約890万人(2002年調査では約740万人),可能性を否定できない予備軍〔5.6%≦HbA1c(JDS値)<6.1%〕は約1,320万人(同約880万人),糖尿病が強く疑われる人や予備軍が計2,210万人(同1,620万人)と推計され,加速度的に増加していることが明らかとなった.
このような状況において,糖尿病治療の目標は単なる血糖値の低下ではなく,健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)の維持と寿命を確保することである.そのためには糖尿病合併症の発症・進展を抑制することが必要である.糖尿病の合併症には網膜症,腎症,神経障害に代表される細小血管合併症と,心筋梗塞や脳卒中を引き起こす大血管合併症とがある.いずれも健康な人と比較して発症頻度が高く,合併症が重症化すると患者のQOLは低下し,死に至ることもある.
これまで,HbA1cを7%(NGSP値)前後まで低下させたときに細小血管合併症を抑制することがDiabetes Control and Complications Trial/Epidemiology of Diabetes Intervention and Complications(DCCT/EDIC), United Kingdom Prospective Diabetes Study(UKPDS)などの研究で報告されており,米国糖尿病学会はHbA1c 7%(NGSP値)未満,日本糖尿病学会はHbA1c 6.5%(JDS値,NGSP値では6.9%に相当)未満をコントロール目標としてきた.しかし,HbA1c 6%(NGSP値)前後を目指した研究はこれまでほとんどなく,厳格な血糖コントロールをすることの意義は不明確であった.
そこで,HbA1c 6.0~6.5%(NGSP値)程度の厳格な血糖コントロールを目指したACCORD(Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes)1),ADVANCE(Action in Diabetes and Vascular Disease : Preterax and Diamicron Modified Release Controlled Evaluation)2),VADT(Veterans Affairs Diabetes Trial)3)の3つの大規模臨床研究が行われた.強化療法群はイベント抑制について有意差がないばかりか,ACCORD試験において死亡率が有意に増加,VADT試験において有意差はないが死亡率は強化療法群において高かったという結果であった.この原因として強化療法群での体重増加や重症低血糖の比率が高いことの可能性が論じられてきた4).
本稿ではこの3つの大規模臨床研究を概説(Box 1)し,厳格な血糖コントロールとそれに伴う低血糖につき考察する.
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