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□はじめに
1型糖尿病の病態は,インスリン分泌の廃絶である.したがってその治療はインスリンの補充に尽きるのであって,食事制限と運動療法を基本とする2型糖尿病の治療とは根本的に異なる.しかし,基礎インスリンの補充量と食事ごとの追加インスリン補充量を決定するにあたっては,標準的な生活様式を設定してインスリン量を決定しなければならないので,1型糖尿病初発でインスリン導入の際には,入院のうえ摂取エネルギー量を一定にし,おおよそのインスリン量を設定するのが望ましい.1型糖尿病に関する基本的な知識と注射・血糖自己測定の手技を体得した後は,外来でインスリン量を調整する.妊娠時や他疾患のための手術前コントロール,糖尿病ケトアシドーシスや低血糖昏睡による緊急入院,その他肥満治療など特殊な場合を除いて,いかにHbA1Cが高かろうとも血糖コントロールのための入院は不要である.
1型糖尿病のインスリン療法には,2通りの考え方がある.入院時や外来でいったん決定した食事エネルギーとインスリン量を基準にしてできるだけそれを遵守するという方法と,患者の生活スタイルに合わせて患者自らがダイナミックにインスリン量を増減したり追加したりする方法である.前者は高齢者で規則的な生活が送れる人には向いているが,若年発症例や高齢でも現役で仕事を続けている人には限界がある.後者はすべての1型糖尿病患者に勧めてもよい方法であるが,認知症を伴う患者や閉経後の女性などでは,インスリンや糖尿病治療に合わせた生活を送るほうが楽だという場合もある.生活や信条,ものの考え方や性格,糖尿病治療に関する知識や経験や能力,あるいは信仰する宗教も含めて,1型糖尿病患者の治療を預かる主治医は,患者との全人的なお付き合いを覚悟しなければならない.もちろん,患者との距離は常に一定ではありえないが,そのような関係を構築したうえで,その人に最適なインスリンの使用法をアドバイスし,さまざまなツールを主治医自身の引出しに出し入れしながら懐を深くしていこうとする姿勢が,1型糖尿病を診察する医師には不可欠である.
本稿においては,若い1型糖尿病患者や,高齢であっても職業上もしくはライフスタイルとして不規則な毎日を送らざるを得ない患者が,生活に合わせて上手にインスリンを使うにはどうしたらよいかという方法を列挙する.目標は,健常者と変わらない生活である.したがって,これらの方法を提案する相手の患者は,すでにインスリン強化療法(basal-bolus療法やCSII)によってある程度の知識や経験を有し,主治医の意図を正確に理解してもらえる心理ステージにいることを前提とする.筆者自身も1型糖尿病であるが,このなかには医師として得た知識もあれば,患者として実践しているうちに身に付けたこと,患者仲間から教えてもらったことなどを含む.また,こういうやり方をしている人もいるということであくまでも参考にしていただきたく,決してすべてを万人に押し付けるべきではないことを前もってお断りしておく.
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