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- Abstract 文献概要
患者の目線の高さに合わせて座り,話しやすい環境に気を配る.
患者が病気について話すままに聞く.患者の話は時間経過に沿っているとは限らず,登場人物やイベントに左右され,糖尿病と関連しないような話題もある.医師あるいは保健医療従事者は医学的事実のみを知りたいと思い,患者は自分の病気の話をしたいと思う.患者が自分の話を聞いてもらったという思いが,治療的な意味合いを持つ.患者に中断することなく話をさせ,患者の話を要約してそれが間違っていないか確認する.患者の話す内容から症状に関するものを抽出して正確な情報を聞き出す.得られた内容は症状なのか,患者の考え・解釈(診断,原因,治療に関する)なのかを区別する.患者自身の言葉を反復して傾聴や共感を示すことは,結局は時間を節約することになる.患者と医師がお互いに同意する“病気の歴史物語”,つまり病歴を共同作業で書き上げる.いったんそれができると,次の共同作業の出発点となる.この共同作業が治療のアドヒアランス(医師と患者双方が練りあげた目標・解決策を互いに尊重し,実行していこうとする過程)を支えるパートナーシップを築くことになる.
一般的病歴
糖尿病の家族歴があれば可能な限り,その人の治療方法,合併症の内容,死因,その年齢について聞いておく.合併症の発症や経過も素因に左右される.本人の20歳時の体重,過去の最大体重を聞いて体重の変化を聴取すれば,目標の体重を考えるうえで役立つ.妊娠・出産歴があれば,生下時体重(4,000 g以上の巨大児の有無),奇形児,流早産の有無を確認する.巨大児,妊娠中の尿糖陽性は妊娠糖尿病を示唆する.現病歴として,口渇,多飲,多尿,夜間尿,易疲労感,体重減少などの高血糖による症状,手足のしびれ・痛み,視覚障害,浮腫などの合併症による症状を聞く.今までに,尿糖・血糖測定をしたことがあるかどうか,過去の健診,診断の契機について聴取する.高血糖を示唆する症状・検査所見がある場合,今回糖尿病型を確認することで糖尿病と診断できる.糖尿病の治療歴があれば,指導・治療内容や医療機関について尋ねる.食事療法,日常の活動量・運動量,生活スケジュール,飲酒・喫煙の状況,社会的背景として職業,家族構成,生活環境も聞いておく.これらの病歴は今後の治療とセルフケアの形成の土台となる情報であるが,短い診察時間に一度にすべての情報を得る必要はなく,長い療養生活を考えれば,面談のたびに確認して個人を理解していく姿勢が必要であろう.
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