- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
緒言
糖尿病患者の多くは,糖尿病に関連した日常的な困難や苦痛,ストレスを抱えながら生活しており,そのためにセルフケアに向き合えないでいる患者もいる。
しかし,主に言語を介する看護面接という関わりにおいては,患者が向き合えないでいるようなセルフケア状況にも直面せざるを得なくなり,それは患者の心理面に焦点を当てれば当てるほど,看護者も,患者との関わりに行き詰まりや限界を感じてしまうようなことがある。
そこで,看護は元来,患者の身体への安楽の援助を大切にするものであることから,この視点をもとにし,「身体の心地よさに働きかける看護援助」を行なってはどうだろうかと考えた。これは,セルフケアへの援助を直接的に前面に出す関わりではなく,患者自身が身体の心地よさを感じられるような関わりであり,これをとおして,患者は自己の身体に目を向け,いたわり,意識する感覚から気づきを得ていくことができるのではないだろうか。また,この看護援助における「存在認知的アプローチ」(正木,1993,1994a,1994b)に基づいた関係性のなかで,患者が自己のありのままの姿を率直に呈することができれば,患者は糖尿病をもつ自己を受け容れ,自らのこととしてセルフケアに向き合っていく素地ができていくのではないだろうか。
本研究では,対象を糖尿病患者とし,身体の「心地よさ」に働きかけることを主軸に,その手段としてマッサージを介した看護援助を用いた。看護現象において身体の心地よさに働きかける看護援助が,セルフケアを視点とした自己の生活や身体に対する認識・思いを中心にどのように影響するのか,患者の反応をありのままに明らかにしたい。これにより,セルフケアに向き合えない患者との関わりになんらかの突破口を開ける可能性が生まれ,また看護者にとっても看護援助の幅が広がるのではないだろうかと考える。
Copyright © 2008, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.