JIM Report
文化と医療倫理
宮地 尚子
1
1京都府立医科大学公衆衛生学
pp.282-283
発行日 1993年3月15日
Published Date 1993/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414900792
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[文化は医療倫理にどう関係しているか]
医療倫理について研究しだしてから2年が経つ.米国に留学したのは,医療人類学を勉強するためであって,初めは医療倫理に首を突っ込む予定はなかった.そもそも,四角ばった法律や倫理哲学の論議にはどうもアレルギーがあって,論理立てて主張すればするほど,「唇寒し」と虚しげに呟きたくなるのだ.ただ,医療人類学といっても現代医療をテーマに思考を巡らせる限り,「では実際にどうすればいいのか」という問いを宙ぶらりんにはできなかったということはある.ともかく,告知についての日米医師の認識の比較研究をきっかけに,ずるずるとinformed consent,そして医療倫理全体に引き込まれ,今やどちらが中心かわからなくなってきている.
そういうわけで,筆者は,文化が医療に関する倫理や価値観にどう関係しているかということに興味を持っている.文化と倫理というのは,結構密接な関係にあるのだが,どういうわけか米国で育った医療倫理の分野には文化に関しての論議が欠けていた.あくまでも倫理というのは世界共通で,正しいことはどの社会でも正しいという考えだ.これには,米国の医療倫理は哲学者,法学者が中心で社会科学者があまり関与していなかったこと,哲学でも特に論理を重視し個人の権利を中心におくアングロアメリカンの分析哲学が主流だったこと,そして,国内の,特に先端医療技術が生み出す問題に関心が集中していたことなどの理由がある.
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